男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2022年05月

記憶カメラさんのBlogに触発されてX-Pro3を購入し、35ミリ(XF 35mm F1.4 R)、23ミリ(XF23mm F2 R WRシルバー)、18ミリ(XF 18mm F2 R)でクラシックネガの世界を存分に愉しませてもらった。

富士フィルムカメラの魅力に引きずりこまれた僕は、次にコンパクトズームなX30を手に入れて近所の小旅行でパチパチ。携帯性は重要だと再認識。だがX-Pro3にXF23mm F2 R WRを常用していると「カメラは35ミリ一本で良いのではないか?」と思い始め、巷で評判の良いX100Vを探す。どのネットショップも売り切ればかり。中古も高い上に、タマが少ない。で、少し待っていると、楽天ショップで新品を発見し、無事にポチることができた。
いま、X100Vブラックが僕の手元にある。デザインの良さは言わずもがな。軽すぎず、重すぎずで手に持っての質感が素晴らしい。
つまり、道具としての満足感が非常に高いのだ。
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良い買い物をした。これからクラシックネガとOVFで撮りまくるぞ!
(メインカメラ、SONY α1の嫉妬の声が聞こえる……。)
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貴族未亡人にして冒険好きの女主人と少し変わった使用人たちが活躍するシリーズ第二弾は、本作の主人公と位置付けられるローズが登場する。
・デヴォンシァの田舎から出て来てロンドンの人の多さに目を回した14歳の新米メイド、ローズが、失踪した兄の手がかりを探しにイーストエンドの阿片窟へと向かう。アメリカ人の探偵(早耳ビル)が同行したとはいえ、彼女のその大胆な行動から「ヴィタ奥様」の家の一員になる資格は十分だろう。
・十分に練られた構成。「ロンドンでの兄の友人から託された人形」(p250)や「金髪のかつら」をつけて臨時のパーラー・メイドを務めるローズとその思いもよらない展開(p211)が、物語をおおいに盛り上げてくれる。
・メイド百人斬りの若き伯爵、その又従兄弟とローズの姉の関係、兄の復習心、ローズの勇気。ピンカートン社の探偵早耳ビルが良い味を醸し出しているが、そうか、彼のモデルはロバート・ダウニー・Jr.なのか。
・「誇りと気概と意志」(p49)。この言葉は良いな。

第九章『美しき悪魔』が一気に物語を加速させ、収斂させる様子には目を惹きつけられる。青い目の悪魔。そうとも、もし彼女あるいは彼に出逢ったとしたら、僕も喜んで魂を差し出すだろう。そんな著者の描写にはしびれさせられた。

LADY VICTORIA : THE SECRET OF A NOVICE MAID NAMED ROSE
レディ・ヴィクトリア 新米メイド ローズの秘密
著者:篠田真由美、講談社・2016年8月発行

ときはヴィクトリア朝イギリス絶頂期。本書は、ロンドン郊外に家を構えたばかりの下層中産階級、シティの会社に事務員として勤めるプータ氏の日記の体裁を持つユーモア小説である。解説によるとパンチ誌に連載され、1892年に刊行されたとある。
当時の慣例に倣って名付けたわが家は「月桂荘」。友人のカミングス君にゴウイング君は頻繁にわが家に現れ、時に楽しい夕べを送り、時に小さな事件を引き起こす。20歳になった息子のルピンは会社を馘首され、さらに「お世辞にも美人と言えない」8歳年上の女を「婚約したから」と「月桂荘」に招待する。会社社長の紹介による、かのマンションハウスでの市長閣下主催のパーティーに招かれる栄光と、乱暴な御用聞きと忠実とは言えない住み込みメイドと、会社のやんちゃな17歳の新入社員との軋轢……。都市サラリーマンはなかなか多忙な毎日を送るのだ。
・下層とは言え中産階級なので服装には気を遣い、毎朝、乗合馬車でシティへ通勤し、帰宅してからは家具へペンキを塗る。まだ若いハウスメイドをよくしつけ、ときに乱暴な二輪馬車(いまのタクシーね)の御者と言い争い、クリーニング店への苦情を伝える日もある。日曜日には退屈なミサに我慢し、詐欺まがいのパーティーに招待されて一文無しになった夜もある。
・八百屋の小僧に燕尾服を汚され、靴を犬に舐められ、それでもパーティでは愛妻とのポルカ・ダンスを披露するのだ。
・息子の失職と再就職と投資熱。友人たちとの楽しいひと時と軋轢、友人に感化されて降臨術にはまる妻、晩さん会での牡蠣、投資先の倒産、息子の友人となった大富豪を前にしての財力の不平等配分への憤り。アメリカ人を友人に持つことの意味。
・そして日々いかなる事態に遭ってもユーモアを絶やさないことが、英国紳士が紳士たる故である。
主人公、プータ氏はその勤勉さが認められ、最後には会社社長からとてつもないプレゼントが贈られて円満に物語は収束する。ホーム・スイート・ホーム。肩ひじ張らない英国市民の生活を楽しく知ることができた。

The Diary of a Nobody
無名なるイギリス人の日記
著者:George Grossmith, Weedon Grossmith、梅宮創造(訳)、王国社・1994年12月発行
2022年5月6日読了
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無名なるイギリス人の日記
グロウスミス,ウィードン
王国社
1994-12-01





明治から昭和一桁期にかけて単身渡米し、下積み人生、あるいは博打的人生からはじめてほとんどアメリカ人になりきった日本人、彼らを総じて『めりけんじゃっぷ』と谷譲二は呼称する。本書は、彼らの波乱万丈の人生を著者自らの5年間の放浪の軌跡を交えて上奏したユーモアあふれる数々の作品からセレクトした、いわば『ジョウヂ・タニイの傑作篇』である。
・前書きが『放浪記』ならぬ『方々記』ときた。Hoboとはアメリカ俗語。一文無しであちこち浮浪して歩く人間のことをいうらしい。そして「放浪常習人(ボヘミアン)の心意気」(p7)には、思わずニヤリとさせられた。
・『テキサス無宿』。著者は従業員の半数以上が日本人、それも大学卒業者かアメリカの大学に在籍中の若者が占めるとある街のレストランで皿洗い見習いとして日銭を稼ぐ。日本にへばりつく学生の弱さを嘆き、鼓舞し、多少の「無茶とその気取り=博打的人生」を真面目に奨めるくだりが良い。で、このレストラン。夜には本物の(闇の)博打会場へと変貌するのだが、そこでのやりとりは熱く、ある意味アメリカ的といえる。明日にもニューヨークへ旅立つという同僚の貧乏学生の、その正体が明かされる描写が秀逸であり、そのタイトルがラストに回収される見事な一篇である。
・ノリに乗った谷譲二のハイブリッドな文体が縦横に踊る『キキ』が、これまたニューヨークの夜のうごめきを見事に体現して実に面白い。フランス女の虜となった日本男児はことごとくおめでたく彼女の餌食となって露と化す。「キキと黒薔薇の騎士」のくだりまで来ると、彼女の"セルフ・プロデュース"の才能に恐れ入るばかり。日本実業紳士は「紐育に呑まれたのさ」(p192) HOT・DOG! えいんね?(ain't it?)
・アメリカからオーストラリア航路船に乗船。黒人と南欧人に混じっての下級船員、それも石炭夫となって辛酸を嘗めるめりけん・じゃっぷ。「にっぽん、だんじ。にっぽん、だんじ」と繰り返し自分を奮い立たせながら働く著者自身の姿には、涙すら禁じ得ない。(『"Sail, Ho"』)
・著者のコスモポリタンの定義は明確だ。すなわち「地球人」とは「郷土人」であり、「人間は、要するに、人種、若しくは民族あっての個人なのだ」と無国籍論を看破するくだりが気に入った(p240)。

20歳で渡米するも留学先の大学を飛び出し、北米中部~東部で下層労働者人生を渡り歩き、最後は石炭夫として働きながら帰国。日本人排斥法のために再渡米の道が閉ざされると、著者は縦横無尽な文筆の才をもって『丹下左膳』シリーズ等の作品を量産し、本書の『めりけんじゃっぷ』ものを描き、夫人を伴って世界一周の旅に出た。その結実が『踊る地平線』であり、僕は岩波文庫版を通読してその縦横無尽な文面に感銘を受けた。わずか35年の人生でも、太く強く前に進んだ著者の生き方に敬意を表したい。

≪大人の本棚≫
谷譲二 テキサス無宿/キキ
編者:出口裕弘、みすず書房・2003年6月発行
2022年5月3日読了

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