男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2022年07月

のっそり。このような不名誉なあだ名で呼ばれる大工の十兵衛は、腕は確かだが世渡り知らずのため貧者の地位に甘んじるも、感応寺の五重塔建立の棟梁に名乗りを上げる。かつて世話になった親方の恩を仇で返すような対応に周囲は呆れかえるも、寺の上人様はさすがの対応を見せる。・この世に生を受けたならば後世に残る仕事を成し、その名を残したい(p28)。僕も技術者の端くれなれば、十兵衛の気持ちは痛いほど良くわかる。
・「俯伏(うるぶ)せしまま五体を濤(なみ)と動(ゆる)がして……」(p69)寺より五重塔の建立を任じられたる、十兵衛の人生最高の時。臨場感に満ちあふれる文体が場を盛り上げてくれる。

親方の男気もなかなかのものだが、十兵衛の"執念"こそ男のあるべき姿といえる。
それにしても幸田露伴の文章は見事。特に「其二十一」の冒頭、過ぎた夏と秋の気配を描く表現には思わず唸らされた。

五重塔
著者:幸田露伴、岩波書店・1927年7月発行
2022年7月24日読了
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五重塔 (岩波文庫)
幸田 露伴
岩波書店
1994-12-16





「わたし、気になります!」

懐かしい千反田える嬢のセリフよろしく、α1ユーザーにとってラージフォーマットなる存在はとても気になるもの。
なるべく目を背けてきたのだが、某店でGFX50S IIの現物を手にしたセイもあって、ついポチってしまった。
でも、キットレンズを装着していろいろ試すも、何か眠い絵だ。多分に僕の下手な腕のせいなのだろうが、ラージフォーマットに期待したのはこれじゃない……。
で、思い切って高価な標準ズームレンズ、GF45-100mm F4 R LM WRを購入して試写すると、ニヤニヤできる写真がどんどん撮れる。F4なのに被写体が浮き上がっているぞ! ここに、求めていた答を見つけた気がした。
でもオートフォーカスが時々迷うのは気になります。
で、マップカメラでGFX100Sの値段を見ると、70,000円引き? 4K動画に、ハイブリッドAF?

いま、僕の手元にGFX100Sがある。
そう、GFX50S IIとGF35-70mm、それに使っていないX-Pro3とXマウントレンズを下取りに出したのだ。
データ量の膨大さはα7RⅣで経験済みだし。
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APS-C機とセンサーサイズを比較してみる。
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「いまの、この瞬間」を残す。
自分を取り巻く自然風景や大型建築物を、一億画素のラージフォーマットに、フィルムシミュレーション『クラシックネガ』『ベルビア』で切り取るアクションは、なんと楽しい感動なのか。

次は広角24mm換算のGF30mmか、発売予定のGF20-35mmを買いたいな(軍資金を積み立てないとね)。
(α1の嫉妬の声が聞こえるが)長く愛用しますよ!

中年の独身女性作家が友人の大佐とメイドを従え、かつて自分に栄光をもたらしたデビュー作の舞台となった山間の村を訪れる。彼女の小説のおかげで村には観光客が押し寄せ、ときを経て今は一大リゾート地としての隆盛を極めていた。かつて自分をもてなした小旅館の主人はこの世に亡く、ベッドの人となった老婦人は顧客を奪い取った息子夫婦の悪態をつくばかり。金の勢いは、こんなにも人を、環境を変えてしまうのか。変えてしまったのはこの私だ……。
20年前にはじめて村を訪れた時、かつてうら若き自分に愛を告白した地元の若者は大ホテルの接客頭となり、すっかり彼女のことを忘れている。思い出させるのに躊躇はいらない。その口から発せられるは無茶な要求だ。そして彼女、老嬢となって久しいレイビーは、自分と村の運命を変えた自著のタイトル『永遠なる瞬間』の本当の意味を今になって悟り、ホテルを後にするのであった。
僕は1928年に刊行されたこの作品『The Eternal Moment 永遠なる瞬間』がもっとも気に入った。
果たして文明は村に、下層階級の人間に、ひいては未開の世界に最善を尽くすものなのか(p140)。たとえばインドにおいて現地人と親しく会話することは「彼らのためにならない」のであろうか。当時は著者の問いかけは否定されていたであろうと想像するのは容易い。では2022年においてはどうであろうか。たとえば人間としての成熟度において、われわれは進歩を遂げえたのであろうか。フォースターの視線が強く突き刺さる。

他に、機械文明を信仰する世界観とその崩壊、すなわち人間賛歌の『The Machine Stops 機械は止まる』、同性愛を扱ったため生前に発表されなかった『Arthur Snatchfold アーサー・スナッチフォールド』、ギリシャ旅行中に精神病を患った友人を描く『Albergo Empedocle ホテル・エンペドクレス』、そして『The Road from Colonus コロヌスからの道』、『The Story of a Panic パニックの話』、『The Story of the Siren シレーヌの話』、『Mr Andrewsアンドリューズ氏』を収録。

E.M.フォースター短篇集
著者:Edward Morgan Forster、井上義夫(訳)、筑摩書房・2022年6月発行
2022年7月16日読了
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E.M.フォースター短篇集 (ちくま文庫 ふ 16-3)
E.M.フォースター
筑摩書房
2022-06-13



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