のっそり。このような不名誉なあだ名で呼ばれる大工の十兵衛は、腕は確かだが世渡り知らずのため貧者の地位に甘んじるも、感応寺の五重塔建立の棟梁に名乗りを上げる。かつて世話になった親方の恩を仇で返すような対応に周囲は呆れかえるも、寺の上人様はさすがの対応を見せる。・この世に生を受けたならば後世に残る仕事を成し、その名を残したい(p28)。僕も技術者の端くれなれば、十兵衛の気持ちは痛いほど良くわかる。
・「俯伏(うるぶ)せしまま五体を濤(なみ)と動(ゆる)がして……」(p69)寺より五重塔の建立を任じられたる、十兵衛の人生最高の時。臨場感に満ちあふれる文体が場を盛り上げてくれる。
親方の男気もなかなかのものだが、十兵衛の"執念"こそ男のあるべき姿といえる。
それにしても幸田露伴の文章は見事。特に「其二十一」の冒頭、過ぎた夏と秋の気配を描く表現には思わず唸らされた。
五重塔
著者:幸田露伴、岩波書店・1927年7月発行
2022年7月24日読了