1990年代後半、最貧国の債務を帳消しにするNGOらの運動が功を奏し、先進国・IMFなどの債務の90%以上が削減されるた世界的な動きが活発となった。だがその時期を見計らって、"彼ら"は活動を開始した。先進国の裁判費用の負担すら重荷となる貧困国にターゲットを絞り、腐敗した社会システムを利用して内部情報をかすめ取り、書類を偽装し、"正当な"権利を奪い取るのである。
「貧困国がデフォルトすると、ハイエナ・ファンドが債権を二束三文で買い取り、アメリカやイギリスの裁判所で訴えて判決を勝ち取り、先進国が債務削減をして多少金の余裕が出てきたところで、資産を差し押さえて回収する、と」(下巻p82)
彼らにとって現地住民の生活レベルなどはどうでもよい。これを至極普通の投資活動とする欧米人の姿には戦慄すら憶える。
・善良なNGO職員が、やむを得ない金銭上の事情によってハイエナ・ファンドに魂を売り渡し、自らの運命を暗転させてゆく様は、他人事とは思えない。
・ハイエナファンドの親玉とされる初老のユダヤ人も、一皮むけば人の親。同性愛者の息子を持ち……。運命とは皮肉なものだが、それを全肯定し、州の法律を変えてゆくパワーには凄まじいものがある。
・腐敗国家のひとつ、アルゼンチンとハイエナ・ファンドの「15年戦争」の結末も興味深い。「結局、弱い者は強い者に蹂躙されるのが、金融ジャングルの掟なのだろうか」(下巻p269)
・コンゴ民主共和国の例など、結局犠牲になるのは貧しい民衆だ。腐敗国の為政者こそがハイエナとともに共倒れするべきであろうに。
・あまりなじみのない英国の議会(15世紀以来続く慣習)や法曹界、国際金融業界の姿などもうかがい知ることができた。

ハイエナ・ファンドを率いるユダヤ系アメリカ人、あまり知られていないが、途上国債務削減のためにNGOで世界的に活躍した日本人女性など、本書の登場人物にはモデルが存在するのも興味深い。

かように世論から忌み嫌われるハイエナ・ファンド(ハゲタカ・ファンド)だが、次のセリフには共感させられた。
「まずは望んで、それに向かって死力を尽くす。これが成功への鍵ってもんだろう?」(下巻p31)
能力と野心の向ける先を、何に合わせるのかが鍵だな。

国家とハイエナ(上巻・下巻)
著者:黒木亮、幻冬舎・2019年10月発行
2020年1月24日読了

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