シーモア子爵夫人のメイド、ローズの毎日は多忙だ。ベティとのおしゃべりに、突然ロンドンのお屋敷に押しかけてきた妹への応対、レディの訪問客との応対を覗き見て……もちろん、仕事もきちんとこなす。13歳で上京して3年がすぎ、昨今はパーラー・メイドの役割も見事に果たすのだ。
そして彼女は、奥様から17歳の誕生日プレゼントにいただいた鍵のかかるノートに、「チーム・ヴィクトリア」の解決した事件を記すのだ。
本書では三つの中篇が披露される。
・清国人料理人のリェンさん(林さん)の父親が護りたかったもの。持ち込まれた"皿"と持ち出された"壺"をめぐって、清国の動乱・英仏の侵略による悲劇の末にリュンさんの得たものは何か。帝国主義の功罪は個人に重くのしかかる。
・公爵夫人のバンシー(ドッペンゲルガー)が夜な夜な「進歩的英国婦人の友愛と向上のための倶楽部」内を歩き、見たものを恐怖に陥れる『あなたの顔をした死神』『仮面とヴェールの影に』は、"男の帝国主義"の時代を生きる女性の自立と歪んだ愛情がモチーフだ。ある女性をエディンバラ大学初の女性入学者として医学部へ進学させようとする公爵夫人。その思いとは裏腹に女性は……。う~ん。結末がプアーなのは何故?
・下町ランベスのミュージックホールから出世したダンサー、サロメ。彼女が描かれた絵画に隠された秘密=王位継承をめぐる熾烈な争いに巻き込まれたレディの手腕が披露される『生首を抱くサロメ』『華麗なる仮面舞踏会』も、それぞれの階級の人物の行動が興味深い。まぁ、ラストはきれいにまとまりすぎた感はあるが。
・危機に際しての覚悟が潔い。いざとなったらロンドンを捨てて出て「旅していない土地、見ていない景色はまだまだあるわ」(p271)と言ってのける。この人生観あってこそのレディ・ヴィクトリアだ。

「勝つことで人を救う機会が得られる闘いなら、少しばかり危ない橋を渡ることになっても、立ち向かう意味はあるのよ」(p187) チーム・ヴィクトリア、その心意気や良し!

どの中篇もヴィクトリア朝の特長が綿密に活かされた作品ではあるが、前2作の長編に比べて中途半端な感じは否めない。それでも、女たちの大英帝国の曙のきざしが丁寧に描かれ、好感が持てた。
次回作予告「切り裂きジャック」にも期待しています。

LADY VICTORIA : IN THE LOCKED NOTEBOOK OF ROSE
レディ・ヴィクトリア ローズの秘密のノートから
著者:篠田真由美、講談社・2020年2月発行