アイルランド、西インド諸島、北米13植民地、カナダ、オーストラリア、そしてインド。帝国が拡大し、やがて解体する様相が初期の暴力集団=海賊、移民、奴隷制度、宗教的情熱、軍事的侵略、そして帝国間対決による経済的衰退の観点から解説される。
・「共和国」アメリカの反乱の衝撃。本来は容易に鎮圧できたはずの「植民地の反乱」を成功させた要因は何か。グローバルな視点からのフランスとの確執、合衆国の独立がもたらした黒人とインディアンの悲劇が語られる。そしてイギリスの政策の転換により、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの独立戦争は回避され、こんにちのコモンウェルスの成立に至るのだ(第二章)。
・19世紀の奴隷制廃止に至る道筋は、昨今のNGOを彷彿させるとともに、イギリスらしさを感じさせる。ただしこれが文化帝国主義の幕開けでもあったのか(第三章)。
・デイヴィッド・リヴィングストン。貧しい生まれながら独力で成功を勝ち取った医師にして宣教師、そして探検家。まさに19世紀のスーパーマンである。彼がアフリカ南部での布教の失敗を認め、アフリカ自身の発展のために探検事業に乗り出し、ヴィクトリアの滝、ザンベジ川=文明化のためのハイウェイを見出したことは感動的でさえある。だがしかし、彼の成功もインドで発生した大反乱=「文明の衝突」(上巻p226)によって影を落とされることは、当時のグローバル社会である帝国を維持・発展させることの困難さを物語る。
・自由主義から階級主義(血統主義)への揺り戻し。インドにおけるカーゾン副王の所業は時代認識を軽視し、かつてイギリスに存在した階級社会をインドにおいて実現しようとするものであったか
・総じて大英帝国は、なかんずく大日本帝国と比較して「最良の統治システムであった」ことを著者は明確にする。特に南京大虐殺とビルマにおけるイギリス人捕虜による鉄道建設をクローズアップし、アジア人の野蛮さを強調している。日本語でいくら反芻しようが、「レイプ・オブ・南京」は唯一の英語で著された「史実」として、これからも語りつがれるのだろうな(下巻p182~)。

大英帝国は植民地のナショナリズムによって解体させられたのではなく、他の邪悪な帝国:ドイツ、イタリア、日本と熾烈に戦い、その財政負担によって崩壊した=犠牲になったのだ著者は結論付ける。いわく「これだけでも、イギリス帝国がこれまで冒したすべての罪の、罪滅ぼしとなるのではないだろうか?」(下巻p220) なるか!

自由主義、自由経済、英語による意思疎通。それらをあまねく普及させたのが大英帝国であるのは確かに疑いない。だが、帝国主義を脱した「新しい帝国による世界統治」、その功利を著者は説くが、それは必然的に、支配するものとされる者の区別を生み出す。それを当然と考える時代は過ぎ去った事実に、著者は未練を感じているのだろうか。

EMPIRE : How Britain Made the Modern World
大英帝国の歴史(上)膨張への軌跡
大英帝国の歴史(下)絶頂から凋落へ
著者:Niall Ferguson、山本文史(訳)、中央公論新社・2018年6月発行
2020年7月4日読了
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大英帝国の歴史 上 - 膨張への軌跡 (単行本)
ニーアル・ファーガソン
中央公論新社
2018-06-07

大英帝国の歴史 下 - 絶頂から凋落へ (単行本)
ニーアル・ファーガソン
中央公論新社
2018-06-07