クラスの軟派の女王クレオパトラこと相庭陽子、硬派の大将である佐伯一枝、主人公は個人主義者の弓削牧子。とある東京の女学生たちの日常、ちょっとした冒険と心のやり取りを同時代的に描いた吉屋信子の昭和七年発表の作品。当時の女学生の言葉遣いや時代背景も新鮮にうつる。
・何でもない一枝とのノートの貸し借りに端を発し、お誕生日会への招待、夏の水泳学校、秋の横浜冒険旅行、と派手な陽子に振り回される牧子。こころのどこかで現状を打破したい、との気持ちを抑えての行動だが、残された弟の気持ちに気づくこともない。
・謹厳な父から母亡き後の自分の宿命を告げられた牧子は、心の中でイヤだと叫んでしまう(p155)。「教育的」でない、こういった描写が当時の読者の共感を呼んだんだろうな。
・夏の終わりに大切な母を亡くし、自暴自棄になって新学期を迎えた牧子は、陽子の誘いに乗ってしまう。しかし陽子はモダンガールはだしの活発な娘だな。赤バイ(昭和11年より前の白バイ)との夜のカーチェイスなんて、親が知ったらたまげるだろうに。それにしても戦前の横浜と神戸は、別格の国際港湾都市だったことが物語の端々からみえてくる。
・弟の失踪事件を受けての家族の和解、一枝姉妹との邂逅、そして「魔法の輪」の外へ。クライマックス『家の灯』は実に心温まるエピソードだ。湘南の浜辺でのラストシーンも実に良い。同じ勿忘草の香りでも、心情によってこうまで変化するものなのか。
リアルな心情の吐露も人間関係の難解さも、計算しつくされた構成とわかりやすい文章で読ませてくれる。時代を超越して読み継がれるべき作品は、やはり一味違うな。

吉屋信子乙女小説コレクション1
わすれなぐさ
著者:吉屋信子、国書刊行会・2003年2月発行
2020年8月16日読了
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