明治39年の作品。『三四郎』とも『虞美人草』ともずいぶん趣が異なるがとても面白い。坊ちゃんの直情的だが胸のすく言動には正義感があふれ、その不器用さとも相まって人物の魅力を高めている。
・狸校長、赤シャツ、山嵐、野だいこ、うらなり君。個性の多彩な登場人物は良いのだが、マドンナをきちんと登場させてほしかった。
・「~ぞなもし」との土地言葉に対峙する江戸っ子の気概も、いたずらっ気の多い生徒たちとの格闘と、下宿へ戻ってからの骨董責め(笑)に遭う様子が滑稽だ。こうなると「親譲りの無鉄砲さ」もかなわない。「天麩羅蕎麦とだんご禁止令」も面白い。
・一章のラスト、清ばあさんとの別離の場面、それに再会してからのラストへの流れが実に良い。つまり、坊ちゃんにとってのお袋さん、か。

「人間は好き嫌いで働くものだ。論法で働くものじやない」(八章ラスト)はその通り。世知辛い濁世にあって、この精神は持ち続けたいな。

漱石全集第二巻
坊ちやん
著者:夏目金之助、岩波書店・1994年1月発行
2020年10月25日読了
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坊っちゃん (新潮文庫)
漱石, 夏目
新潮社
2003-04T