公爵家の宮殿に生を受け、パブリックスクールと陸軍士官学校を出て将校となる。若き時分から葉巻と昼寝の習慣を持ち、西インドとインドで帝国的視野を拡げ、政治家に転身しては名演説で議会を主導し、閑職にある時は絵筆を握り、ときにレンガ積みに精を出し、優れた文筆家として晩年にはノーベル文学賞を授かることとなる。1930年代にはヒトラーへの宥和政策を続ける政府を非難し続け「戦争好き」と四方から嘲りを受けた……。
そう、彼こそは、ナチスの惨禍から英国と全ヨーロッパを救った男、チャーチルである。本書は、植民地主義時代の大英帝国の盛衰と、その一生涯を帝国と共にした彼の足跡を「帝国主義者」としての側面から追う評伝である。
・若き将校時代から自身の体験談による著作をものとしたチャーチル。著作からは、アジアの土民や「ホッテントット」を調教する「帝国的使命感」が窺える。不快だが、当時一般の白人支配層の認識でもあったのだろう。
・第一次世界大戦の戦車、飛行機と潜水艦の導入を指導したのが彼だったとは知らなかった。
・第二次世界大戦に臨むにあたっての名演説「血、労力、涙と汗」とフルトンでの「鉄のカーテン」演説は、永遠に語り継がれるであろう。

2002年にBBCが企画した「偉大なイギリス人」で見事一位を獲得しただけでなく。5ポンド紙幣にその肖像が印刷された、絶大な人気を誇る人物、チャーチル。その彼をもってしても制止できなかったのが「帝国の解体」だ。世界大戦後、民族自決は当たり前のものとなり、旧来の帝国主義的な行動は許されなくなった。チャーチルはこのことを理解していたにもかかわらず、それでも死ぬまで帝国主義者を貫こうとしたのか……。ある意味、潔い人生だったと思う。

世界史リブレット 人 97
チャーチル イギリス帝国と歩んだ男
著者:木畑洋一、山川出版社・2016年2月発行
2020年11月11日読了
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