シティ、ウェストエンド、パレス、ウェストミンスター、ケンジントン、チェルシーの地域別に章立て、それぞれ「ロンドンの牧野義雄」「ミルワード先生のロンドン案内」としてロンドンにおけるマキノの足跡と、歴史的・地理的観点からエッセイがつづられる。
・1907年『THE COLOUR OF LONDON』の出版で一躍「ときの人」となり、1911年には牧野義雄の名が裕仁皇太子、東郷平八郎と並んでデイリー・メイル紙の年間に掲載されていたとある(p16)。それが一旦英国を離れて1927年に戻ると「過去の人」として扱われ、第二次世界大戦後には貧しく寂しい老後を日本で迎えることになるとは……。芸術の道は厳しいな。
・イギリス人の嫌う「ロンドンの霧」を芸術の域にまで高め、彼らにその魅力を気づかせた「霧のマキノ」。彼の、建物の正面から全景を描くのでなく、その一部を描きつつも、それが何であるかを知らすべき技量には感服だ(p25)。
・牧野の絵はどれも好みだが、『月夜のヴィクトリア・タワー』(p119)が特に良いな。雲に月光が反射し、薄明るい夜に国会議事堂の黒いシルエットが浮かび上がる。灯りの下に佇む(たぶん)若い女性は、ウエストミンスター・ブリッジの向こう側から来るはずの良人を待っているのだろうか。ムード溢れる一作だ。

20世紀を迎えるころには地下鉄も電化されて縦横無尽に八田宇していたはずだが、牧野の絵には現われない。「むしろ牧野は、戸外の地上で--少々不便でも、より人間的に--、あちこち動き回るほうが好きだったようである」(p152)か。僕もロンドンの地下鉄より、街を歩くほうが好きだ。マキノの気持ちがわかるような気がする。Milward氏の思い出話もあいまって、興味深い読書体験ができた。

My Fair LONDON
マイ・フェア・ロンドン
著者:Peter Milward、恒松郁生、中山理(訳)、東京書籍・1993年9月発行
2021年2月24日読了
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マイ・フェア・ロンドン
郁生, 恒松
東京書籍
1993-09-01