わがシスター、木蓮の洋子のつつましく透き通るような美しさ。夏の軽井沢で邂逅したアクティブな菫の花、克子の強い美しさ。彼女たち二人とも仲良くなりたい。そんな三千子の気持ちはゆらゆらと揺れて、運命に流されそうになる秋。そこに事件は起こる。
本書は、戦前日本のベル・エポック期、昭和12年の横浜・山の手のミッション・スクールを舞台に、高等女学校1年生(中一)、4年生(高一)、5年生(高二、最終学年)の交流と確執、心の葛藤が、後年ノーベル文学賞を受賞する川端康成の繊細な筆と、当時絶大な人気を誇った絵師、中原淳一のコラボレーションによって華やかに彩られる少女小説だ。
・入学したばかりの新入生を見定める上級生たち。そっと洋子から手渡されるポエム入りの手紙に、机上にささげられた克子の花束。春の出会いは乙女の期待を大きく膨らませる。それにしても外国語の授業光景は容赦なく、ほほえましいな。(1章 花選び)
・お嬢様たちの清く正しい学園生活。小学校から上がったばかりの千代子にとって、新しい生活は何もかも輝かしい。一方で母親へ甘える姿もほほえましい。
・牧場主の娘、洋子との邂逅は千代子にとって心の安らぎ。当時「エス」と呼ばれた関係も悪くはない。(2章 牧場と赤屋敷)
・浅間山の噴火、その煙を眺めてフランス人牧師は述べる。「朝の火山、緑の林、黒い髪、大変よろしい」これくらい心の余裕を持たないといけないな。そして軽井沢での克子の絡みは、千代子を徐々に変えてゆく。(6章 秋風)
・陰湿ないじめはいつの時代もあるんだな。だが克子の洋子への確執も、秋の事件で一変する。このあたりの描写は実に良い。(9章 赤十字)
・洋子が三千子に贈るクリスマス・プレゼント。それは……。洋子の心の底のきらめきがとてもまぶしいぞ。(10章 船出の春)
・完全復刻版では美麗な表紙と旧カナ版の、昭和13年初版の雰囲気を存分に味わえる。新かな版では、中原淳一の多数の挿絵が楽しめ、二度おいしい。おおっ、当時の女学生はセーラー服にベルトを締めていたんだな。

昭和13年に初版、それからわずか4年で47もの版を重ねた戦前の大ベストセラー。当時の少女が熱狂したのもうなずける。その源は、やはり美しき絆。本当に良い作品は時代を超えて永遠に受け継がれるのだな。

少女の友コレクション
完本 乙女の港
著者:川端康成、挿画:中原淳一、実業之日本社・2009年12月発行
2021年3月11日読了
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完本 乙女の港 (少女の友コレクション)
川端 康成
実業之日本社
2009-12-11