国益よりも「政権の維持」を優先させた2013年以降のイエスマン長期自民党政権により、日本の統治機構、ひいては国力がいかに衰微したのか。このさき日本が国家として世界でどうふるまえるのか。第一章で提起される辛く厳しい問題に関し、米国、中国の趨勢と「新冷戦」の構造、その米中の狭間にあっての日本国の「指針」が、知見豊富な二人の対談によって導き出される。
・明治維新から40年、そして太平洋戦争の敗戦から40年で日本はダメになった。その理由は「敗戦」を肌で知る為政者が退くことによるものである。翻って現在の日本は、支離滅裂なコロナ対策にみられるように統治機構が破綻しており、太平洋戦争突入と同様、「行くところまで行く」ことになるのではないか。それもまた良し。
・感情に訴える安易なキャッチフレーズ「自由で開かれたインド太平洋」に一喜一憂するのではなく、米国150年の歴史、中国開闢以来の東アジアの趨勢(華夷秩序から国民国家秩序への変遷期)を理解し、そこから日本の立ち位置を考えなければならない。
・本来は帝国モデル、あるいは連邦国家でありえたはずの「人民共和国」は、特に人口構成に危機が見えつつあり、それが焦りとなって強権的な政治姿勢となり、国際社会に脅威を与えている。そして新疆ウイグル自治区の人権侵害は想像を絶するものである。
・いっぽうのアメリカも、もはや世界にヴィジョンを示す能力を失っている。バイデン政権に期待は持てない。

「歴史の趨勢をしっかりと見据え、後々の歴史の検証に耐え得る決断を下し、それを実行する」(p242)政治家を輩出しなければ、この日本に未来はない。そして、自由貿易を通じて諸外国と相互依存を深める中堅国家として生き残りをかける。そう理解して書を閉じた。

新世界秩序と日本の未来 米中の狭間でどう生きるか
著者:内田樹、姜尚中、集英社・2021年7月発行