ときはヴィクトリア朝イギリス絶頂期。本書は、ロンドン郊外に家を構えたばかりの下層中産階級、シティの会社に事務員として勤めるプータ氏の日記の体裁を持つユーモア小説である。解説によるとパンチ誌に連載され、1892年に刊行されたとある。
当時の慣例に倣って名付けたわが家は「月桂荘」。友人のカミングス君にゴウイング君は頻繁にわが家に現れ、時に楽しい夕べを送り、時に小さな事件を引き起こす。20歳になった息子のルピンは会社を馘首され、さらに「お世辞にも美人と言えない」8歳年上の女を「婚約したから」と「月桂荘」に招待する。会社社長の紹介による、かのマンションハウスでの市長閣下主催のパーティーに招かれる栄光と、乱暴な御用聞きと忠実とは言えない住み込みメイドと、会社のやんちゃな17歳の新入社員との軋轢……。都市サラリーマンはなかなか多忙な毎日を送るのだ。
・下層とは言え中産階級なので服装には気を遣い、毎朝、乗合馬車でシティへ通勤し、帰宅してからは家具へペンキを塗る。まだ若いハウスメイドをよくしつけ、ときに乱暴な二輪馬車(いまのタクシーね)の御者と言い争い、クリーニング店への苦情を伝える日もある。日曜日には退屈なミサに我慢し、詐欺まがいのパーティーに招待されて一文無しになった夜もある。
・八百屋の小僧に燕尾服を汚され、靴を犬に舐められ、それでもパーティでは愛妻とのポルカ・ダンスを披露するのだ。
・息子の失職と再就職と投資熱。友人たちとの楽しいひと時と軋轢、友人に感化されて降臨術にはまる妻、晩さん会での牡蠣、投資先の倒産、息子の友人となった大富豪を前にしての財力の不平等配分への憤り。アメリカ人を友人に持つことの意味。
・そして日々いかなる事態に遭ってもユーモアを絶やさないことが、英国紳士が紳士たる故である。
主人公、プータ氏はその勤勉さが認められ、最後には会社社長からとてつもないプレゼントが贈られて円満に物語は収束する。ホーム・スイート・ホーム。肩ひじ張らない英国市民の生活を楽しく知ることができた。

The Diary of a Nobody
無名なるイギリス人の日記
著者:George Grossmith, Weedon Grossmith、梅宮創造(訳)、王国社・1994年12月発行
2022年5月6日読了
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無名なるイギリス人の日記
グロウスミス,ウィードン
王国社
1994-12-01