イギリス人のシニシズム。それは彼らの誇りでもある。本書は、映画『サウンド・オブ・ミュージック』、サヴォイ・オペラ『ミカド』、シェイクスピアの演劇、アガサ・クリスティの作品、ミュージック・ホールのコメディ等を題材に、イギリス文化の特徴を探る興味深い一冊となっている。
・『サウンド・オブ・ミュージック』をイギリス人は誇りにしつつ、表だって褒めない。そのアングロサクソン人種のシニカルさには根拠があると著者は述べる。英語表現の素直な表現を多用しない英語、ストレートな表現を慎む国民性、だが一方で感傷的なセンチメンタリティを発揮するなど、英国で育った著者ならではの観察眼には納得だ。あと『エーデルワイス』はオーストリア民謡だと、僕は本気で思っていたぞ(本作のミュー時間る板尾楽曲だったとは)。
・W・S・ギルバートの自画像(p65)。その自他ともに認める「ひねくれた」性格が生み出した戯曲が、ヴィクトリア時代から現代に至るまでのイギリス人を熱狂させた秘密は何か。作曲家サリヴァンの甘く優美な楽曲と「ひねくれた」セリフが出会うとき、なんとも言えない相乗効果を発揮するらしい。その発展形が現代のミュージカルなんだな。ヴィクトリア女王もお気に入りだったというDVD『ミカド』を今度鑑賞しよう。
・アガサ・クリスティの描く1930年代のミステリーでは、しばしば上流階級の領地の居所、すなわちカントリー・ハウスが舞台となる。そう、彼女自身がアッパー・ミドル・クラスの出身で社交界を知る女性であることから、彼らの暮らしぶりがリアルに描写されることが特徴でもある。彼らの従僕、使用人たちの世界はとても厳しいが、町の人と違って上流社会と接する機会あればこそ、イギリスらしい文化が生まれるのである。

帝国が膨張してグローバル化を進めた結果、イギリス社会は急速に多民族化した。カントリー・サイド、村の生活を求めることは、すなわち「多民族国家イギリス」ではなく「古き良きイングランド」への憧れである(p161)。これは現代生活に無いもの、すでに失われた古き良き日本の姿をいつしか求める我々の姿に重なって見えるな。

へそ曲がりの大英帝国
著者:新井潤美、平凡社・2008年7月発行
2022年6月12日読了