中年の独身女性作家が友人の大佐とメイドを従え、かつて自分に栄光をもたらしたデビュー作の舞台となった山間の村を訪れる。彼女の小説のおかげで村には観光客が押し寄せ、ときを経て今は一大リゾート地としての隆盛を極めていた。かつて自分をもてなした小旅館の主人はこの世に亡く、ベッドの人となった老婦人は顧客を奪い取った息子夫婦の悪態をつくばかり。金の勢いは、こんなにも人を、環境を変えてしまうのか。変えてしまったのはこの私だ……。
20年前にはじめて村を訪れた時、かつてうら若き自分に愛を告白した地元の若者は大ホテルの接客頭となり、すっかり彼女のことを忘れている。思い出させるのに躊躇はいらない。その口から発せられるは無茶な要求だ。そして彼女、老嬢となって久しいレイビーは、自分と村の運命を変えた自著のタイトル『永遠なる瞬間』の本当の意味を今になって悟り、ホテルを後にするのであった。
僕は1928年に刊行されたこの作品『The Eternal Moment 永遠なる瞬間』がもっとも気に入った。
果たして文明は村に、下層階級の人間に、ひいては未開の世界に最善を尽くすものなのか(p140)。たとえばインドにおいて現地人と親しく会話することは「彼らのためにならない」のであろうか。当時は著者の問いかけは否定されていたであろうと想像するのは容易い。では2022年においてはどうであろうか。たとえば人間としての成熟度において、われわれは進歩を遂げえたのであろうか。フォースターの視線が強く突き刺さる。

他に、機械文明を信仰する世界観とその崩壊、すなわち人間賛歌の『The Machine Stops 機械は止まる』、同性愛を扱ったため生前に発表されなかった『Arthur Snatchfold アーサー・スナッチフォールド』、ギリシャ旅行中に精神病を患った友人を描く『Albergo Empedocle ホテル・エンペドクレス』、そして『The Road from Colonus コロヌスからの道』、『The Story of a Panic パニックの話』、『The Story of the Siren シレーヌの話』、『Mr Andrewsアンドリューズ氏』を収録。

E.M.フォースター短篇集
著者:Edward Morgan Forster、井上義夫(訳)、筑摩書房・2022年6月発行
2022年7月16日読了
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E.M.フォースター短篇集 (ちくま文庫 ふ 16-3)
E.M.フォースター
筑摩書房
2022-06-13