古い大陸欧州の知性。読了後、とっさに浮かんだ言葉でした。

事象から距離を置き、深く呼吸し、沈思黙考する姿勢。歴史の中枢は新大陸に移ったとは言え、過去(劣悪なものも含めて)の蓄積に研磨された感性と怜悧な問題意識が、力で押し通す現在の米帝国とは異なる新鮮な論説を生み出してゆく……。
フランスの国際評論誌、ル・モンドに1998年から2002年の間に掲載されたなかから、厳選された記事が収録されています。
米国の外交専門誌、FOREIGN AFFAIRSと読み比べると面白いのかもしれません。

最後の植民地から未練がましく撤退させられたアルジェリア戦争。栄光の祖国に染みついた、この恥辱の記憶を歴史から抹殺しようと、フランスは国を挙げて取り組みます。驚くべきことに、中学・高校の歴史教員自身が「教育されなかったために」詳細を知らず、また「知らなくて良い」との国の方針に唯々諾々と従っているのです。過酷な植民地行政・「土民」弾圧・虐殺の事実すら「そんな些細なこと!」と片づけられてしまう現実……。一方でナチスについては、生徒の脳髄に徹底して叩き込まれるのです。
なんか現在の日中、日韓関係が穏やかに思えてきました。(双方に多々、問題はありますが。)

最大のタブー「ワーグナー演奏」を実行した世界的指揮者を国家レベルで弾劾する"民主主義国家"イスラエルの恐ろしい姿と、対するパレスチナ・アラブ社会の矛盾を突き崩すのは、あの故エドワード・サイードです。(合掌)

他にも、違う視点から探求した1989年の天安門事件(資本主義遂行のために当局が仕組んだ!)、世界銀行の「第三世界にとってありがたくない」現実、アフリカや中央アジアの資源国家を紛争へと導く「多国籍企業」の実態、等々。
読めば興奮間違いなしの記事が満載です。

実は、これらの記事はすべてWEBサイトで公開されたものであり、その気になれば読破することも可能です。それでも、紙媒体で読む意義があるとの認識に立ち、出版するに至ったと説明されています。同感です。

力の論理を超えて ル・モンド・ディプロマティーク1998-2002
著者:ピエール・コヌザ、ジャン=イヴ・カミュ、エドワード・サイード、他
NTT出版・2003年8月発行
2005年10月22日読了