1990年初頭より散発的な戦闘が行われ、1999年のカルギル紛争でピークを迎えるカシミール紛争。2006年現在も解決の目処が立たないまま、隣り合う核保有国、インドとパキスタンが領有を主張してやまない地域の、まだ比較的平和な時代の旅物語。

仏教に帰依したアショカ王に始まり、その後の為政者がヒンドゥー王朝、ムガール王朝、シーク王国、1846年以降のジャンムー・カシミール藩王国=英国間接統治へと変遷した豊かな歴史と、その産物でもある多様な文化・手工業産物が紹介されます。
現地の人々の息づかいまで伝わるような紀行文と、大判かつ豊富な写真が、旅を共有した気分にさせてくれます。

それにしても、由々しきはカシミール問題。これは、1947年のインド、パキスタンの分裂しての独立にさかのぼる、英国帝国主義の無責任な置き土産です。現地の人が独立を望もうと、パキスタンへの帰属を望もうと、インドが許すはずもなく、ゲリラ化した住人とインド軍との小競り合いが続いてきました。さらにはアルカイーダ系列のムジャヒディンが多数、この地域に雪崩れ込んだことにより、事態はいっそう複雑になっています。

アフリカ・スーダンのダルフールといい、ナイジェリアのビアフラ(古い!)問題といい、パレスチナ問題といい、旧宗主国の勝手な政策が現地人の生活を滅茶苦茶にし、命までをも奪う現実。世はグローバリゼーションと言えども、100年前の帝国主義の残滓は、いまもいたるところで火を噴いています。

ロマンチック・インディア カシミール
著者:茂市久美子、藤田弘基、ぎょうせい・1988年5月発行
2006年5月15日読了