国の威信を賭けて世に放った新100ドル札。その偽札が出現したことに衝撃を受ける米国の対応は素早く、インテリジェンス組織の発達した国家の凄味とともに、同盟国イギリスとの信頼関係をも匂わせてくれます。
やがて物語は、弾道ミサイルの開発に見切りを付けた北朝鮮の「東アジアにおける米中の力関係をも一変する○○」の密輸入問題に発展し、現実味を持って淡々と描かれます。

拉致被害者の母親の心痛と冷酷な役所の対応にしろ、ウクライナのオレンジ革命(小説に取り上げられるのは初めてかも!)にしろ、時事を克明に描くのは、著者の力の成せる技ですね。北朝鮮への首相訪問に関する"不透明な交渉"を糾弾し、現役外務省高官(あの人ですね)への資質を問うくだり等、こんなこと書いて大丈夫なのか? と心配させてくれます。

見返りの少ないエリート会社員、家族崩壊、飽くなき名誉欲と飢えた愛欲の探求、無私な愛国心と信念。その帰結が巨大な犯罪に巻き込まれ、個々の破滅を招く現実。
それにしても、人間はかくも弱きものか。

舞台裏は国際政治の現実と虚構が一体となったものです。これからも、この著者を注目ですね。
(持ち上げといてすみませんが、個人的には「一九九一年 日本の敗北」が一番面白かったです。)

ウルトラ・ダラー
著者:手嶋龍一、新潮社・2006年3月発行
2006年5月24日読了