もはや既定路線である「米国一辺倒」に加速し始めた日本政府と国民意識に対し、メディアから距離を置き、知性と良心を働かせて深く考えることを説く寺島氏の、九・一一からイラク戦争終了後半年経過までの著述集。

三井物産時代にイランと米国に長く赴任し、特に米国の深層を知り尽くした著者の主張は、なるほど、耳を傾けるべきものが多々あります。

「"テロ撲滅と民主化推進のための戦い"とは、米国の国際責任を自覚した孤立主義脱却の現れなのか? 否、経済力と軍事力を背景にした米国の価値観の押しつけであり、ねじれたユニラテラリズムである」

「(イラクやアフガニスタンなどの)屈服しそうな都合の良い悪役に攻撃を加え、勝利を演出するだけの、本当の敵を見失った戦争である」

「瞬間風速的には米国の力の論理が突出しているが、世界は着実に国際法理と国際協調システムが機能する時代へと向かいつつある」」

「日本が長年唱えてきた、国連中心の国際協調主義、武力を行使しない平和主義は、結局は米国の都合により、いかようにも変更される程度のものだ。所詮、日本は米国の周辺国でしかない。そう世界の国々には映った」

「広く世界から敬愛される日本。それは武力を紛争解決の手段とはせず、大量破壊兵器の廃絶を、アメリカを含む全世界へ堂々と主張する日本である」

「日本人は時代と向き合うことを止め、ただ漂流していないか?」

米軍と自衛隊の一体化が進んでいますが、裏を返せば自衛隊のすべてを米国に掌握されると言うこと。いまでは考えられませんが、もし将来「米中同盟v.s.孤立した日本」の敵対関係が成立した場合、日本は最初から降伏を余儀なくされるわけで、長期間、国防を(実際には外交も)米国の力に頼り切った"ツケ"としては、あまりにも大きいと言えます。
無論、夢物語で済むようにしなければいけませんが、現況からすると「世界情勢」と言う名の米国の意思に流されて漂流して、気付けば「罠に嵌められた!」なんてことになりそうです。

本書の半分はイラク戦争と対峙した米国と日本の姿勢を質すものですが、「重心の低い知性、歴史軸と時間軸に裏打ちされた本物の脳力」、「市井の人の理性や品格が、その時々の判断に滲み出る」等々、味わい深いエッセイが新たな気持ちにさせてくれます。

これからも寺島氏の発言には、刮目して対峙したいと思います。

脳力のレッスン 正気の時代のために
著者:寺島実郎、岩波書店、2004年12月発行
2006年6月17日読了