巷を賑わす「下流社会」論議。所得格差は規制緩和や改革によって是正されることはなく、今後、ますます拡大する。何故か? それはグローバル化の宿命であり、労働市場に間接的に参入する中国、インド等の極端に低い人件費が、我々先進国の高すぎる給与所得を引き下げる。グローバル化に対応できる経営者と高い技術を有する専門職だけが高い所得を維持する。それ以外の者、すなわちほとんどの日本人の所得が低下し続けることが明らかにされる。
その遠因は現在の上級公務員試験にあると著者は説く。真の平等な能力主義社会であった明治時代。その高級文官登用試験は意義有ったものの、昭和になると弊害が顕著となり、やがては日本を崩壊へ導いた。その悪弊は戦後も残り、政治・経済・教育の硬直した日本社会はスローデスへ向かうことが述べられる。
比較としての米国、英国の身分社会とその変遷、特に米国の学歴実力社会の解説は興味深い。
2030年には日本のGNPは中国の半分以下になり、一部を除いて勤労意欲のない若者と年金を打ち切られて悲嘆にくれる多数の老人の群れ、消費税率20%の荒廃した未来の日本の姿は衝撃的だ。
「一億総下流」にならないための道筋がいくつか提言される。特に「グローバルな視野を持った新の愛国者の粘り強い戦いのみが、未来を切りひらく」のであり、日本人全体の教育レベルを引き上げる必要性を著者は指摘する。

這い上がれない未来 9割が下流化する新・階級社会
著者:藤井厳喜、光文社・2005年12月発行
2006年12月10日読了