チャラチャラした時代に、あえてハードボイルドを貫くことの意義!
江戸川乱歩賞を獲得した、この作品の衝撃は憶えている。
「テロリストのパラソル」
その冒頭の、著者の言葉は、こうだ。
「黄金の時間というものがある。……週末にウィスキーを飲みながらミステリーを読む時間だった。……ウィスキーがビールになり、そのビールもずいぶん量はへったが、この時間はいまも至福とともにある。
……一歩でもその職人の域に近づきたい。遠い夢かもしれないが、かくありたいと願う」
なるほど。作品を発表するにつれて、奥行きが深まるのは、この志があってこそか!

警察官、自衛官、探偵、女医、タクシー"探偵"運転手……。ミステリーの主人公は往々にして、特殊な職業に就くヒーローだ。普通のサラリーマンが主人公であり、特殊な技能を有するわけでなく、最大限の能力と勇気と知恵を振り絞って困難に立ち向かう。企業小説に現れるような主人公が犯罪に立ち向かい、体を張って正義を貫く姿は、快い読後感を与えてくれた。

闘病生活の様子を文学誌に発表していたのか……読んでいない。
氏の作品に現れる、あくまで昭和スタイルを貫く主人公。その男のスタイルには、酒とタバコが欠かせない。作品を読み重ねると、それが作者自身の姿であることを確信した。

2007年5月17日、藤原伊織氏が食道癌で亡くなった。
あくまでも自身のスタイルを貫き通す、か。最後に、男の生き方を見せてくれたと思う。
そして、氏の作品は永遠に残る。