同時多発テロに過剰に反応し、自らの"力の論理"を振りかざしてアフガニスタン、イラクへ侵攻し、いまなお居座り続ける米国の姿を、中央アジア天然ガス・パイプラインと埋蔵量世界第4位の石油への露骨な執着と利権構造と、ネオコンと大企業の癒着、権力を独占行使する"官"の姿を借りて批判的に描きつつ、自由な一市民の勇気と運命を力強く示した作品だ。

果てしなく続くニューヨークでのテロは治安当局を刺激し、愛国者法による歯止めのない逮捕が続く。自由と民主主義の名のもとに次々と拘束され、言われなき尋問に苦しめられる反戦活動家の姿。かつてのマッカーシズムを凌駕する規模の人権蹂躙が正当化され、社会の崩壊する様子すら垣間見れる。

登場人物の心の動きまで伝わってくるような描写は一級品だし、骨太のストーリーも秀一だ。それだけに、最終段階の謎を残したままの終幕には物足りなさを感じた。

世界一豊かなアメリカでの、黒人の置かれた社会的立場と虐げられた生活と、白人警官の"ニグロ"を見る意識と、手段を問わない権力者の非道な「公務の執行」は、丁寧に描かれる。それは、在日朝鮮・韓国人の置かれた立場を重ね合わせるような、著者の強い問題提起なのだろうか。

ニューヨーク地下共和国 下
著者:梁石日、講談社・2006年9月発行
2008年6月15日読了

ニューヨーク地下共和国 上
著者:梁石日、講談社・2006年9月発行
2008年6月7日読了