本作は小説というより、短いファンタジーのオムニバス。こころや虞美人草に代表される長編とはかなり印象が異なる。

第三夜が秀逸だ。
「左を見るとさっきの森が、闇の影を、高い空から自分らの頭の上へ投げかけていた」
背中におぶった我が子が自分の過去だけでなく、これから起こることも予言するかの口をきく。小雨の中の街道で、瞬時に百年前の自らの行為を理解する。小泉八雲、河竹黙阿弥等、日本の伝統文学に散見される因果応報の盲人殺しの物語。

それにしても、イギリスの絵画とキリスト教の伝承(第十夜)、過去の時代の人物との同居(第六夜)、神代の頃の自分の記憶の回想(第五夜)等、これだけバラエティに富んだ話をひとつの作品にまとめる辺り、これもひとつの才能か。

夢十夜 漱石全集第十二巻所収
著者:夏目金之助、岩波書店・1994年12月発行
2008年10月12日読了