1918年のパリ。ドイツ軍の空襲に脅え、傷つきながらも人々の日々の営みは続く。
群集心理への軽蔑的な反動から、知的・芸術的自我至上主義へ引きこもるフランスの思想界。3ヶ月後の招集を控え、つまらない日常をすごすピエールも、そんな頭でっかちの学生だ。何気なく乗った地下鉄の中で美しい少女を見初める。駅に逃げ込む空襲の被害者たち。リアルな血染めの男。気づけば、彼女の手を握り、彼女もまたピエールの手を握る。
偶然の再会は一気に距離を縮める。裁判所判事の父親を持つ中産階級のピエールは、貧しい生まれ育ちのリュースにのめり込み、憧れていた兄の戦場の華々しい話にも興味を無くす。どうせあと3ヶ月の命。厭世の気分と投げやりなあきらめが、単調な毎日へと彼を誘う。上空の爆撃機のエンジン音と長距離砲の咆哮にさらされながらも、美しい二人だけの世界を満喫し、永遠を願う。

ピエールの悩み。人を人として愛するのか、所有物として愛するのか。自分の属する中産階級のひからびた人間性、戦争への責任。孤独な精神と思想の王国。

リュースの哲学。贋作を描き、金持ち連中に売りつけるのは生活のため。工場でドイツ人を殺戮する砲弾の製造に従事する母親の行為も正しいのだ。「生きるためには何でもする」のだ。

様々な思いを抱く二人を、しかし、サンジェルベ教会にいる二人を、ドイツ軍長距離砲の砲弾は容赦なく貫く。悲しみで物語は幕を閉じる。

小説に添えられた版画が実に良い。フランス語版では、表紙に版画作家のクレジットも明記されているようだ。

PIERRE ET LUCE
ピエールとリュース
著者:ロマン・ロラン、宮本正清(訳)、みすず書房・2006年5月発行
2008年10月28日読了