著者の若き日のフランス留学に始まり、フランス各地とスペイン旅行記の体裁をとる本書は、実は、多文化共存の生き方が文化を豊かにし、異文化に扉を閉ざした文明の衰退を語る。そして、近代以前の江戸日本や近世の西欧、中世のイスラム・スペインまで歴史的視野を広げることで、技術文明の停滞した21世紀で日本と世界が生きる道を探る。

・歴史の意味。それは違った時代や地域に旅をし、その時空の人になり、生きる知恵や経験を汲み取ること。

・必要なのはITスキルではない。自分自身が足で稼いだ経験に裏打ちされた「判断力」だ。
人の行く裏に道あり、花の山。

・独自の島国文化が存在するのは日本だけではない。大陸欧州から見たイギリスもそうだし、海洋国家アメリカもそうだ。文化のとぎれが外交的能力を乏しくし、軍事力とカネの力に頼る。3国に共通する悲しい特性だ。
フランスに代表される大陸欧州と中国大陸は様相が異なり、古来の多民族間の調和をとる感覚が働いている。

・1972年の世界遺産条約は画期的だ。人と自然の関わりと同時に、人同士の関わりを重視し、人生を楽しく送る趨勢はますます強くなるだろう。

・旅は徒歩に限る。散策、従容、遊歩、ペリパトス。これらぶらぶら歩きこそ、いい考えの浮かぶ源泉であり、車に邪魔されず歩ける道を有する都市が、21世紀に成功する。

・フランスは総人口より外国人旅行客のほうが多い国、観光立国を目指す日本に学ぶ点は多い。
・前近代の日本文化と「生きる喜び」を実感できるしかけが必要。
・良い食事こそより良い人生を送る秘訣となる。

・よそ者と接することのないところで文化は磨かれない。日本文化もよそ者と日常的に接することで、世界中に知られる普遍性を持つことができる。

日本人のきめ細かな感覚と美意識は健在であり、江戸時代に当たり前に存在した寛容と共生のコミュニケーション感覚を取り戻せば、21世紀に主流となるEUと中国のユーラシア大陸文化に上手く溶け込み、同じ島国文化を持つアメリカとの橋渡し役にもなれる、と総括される。

ヨーロッパ思索紀行
著者:木村尚三郎、日本放送出版協会・2004年2月発行
2009年3月13日読了