自由主義が浸透し、次々と起こる科学技術革新と思想の新潮流。価値観が移ろう20世紀初頭、真摯に世の中を見つめ、悩み抜く生涯を全うした100年前の二人の偉人がいた。夏目漱石とマックス・ウェーバーだ。その人物と作品を引用しつつ、現在を生きるわれわれが、まじめに考え、悩み抜くことの大切さを説く。

文明が進むほどに深刻さを増す、人の孤独感。漱石「こころ」に登場する先生は、世の中から距離を取り、自分の内に築いた城の中で一生を過ごす。死の直前に出会った「私」への手紙には、その寂寞がにじみ出ていた。現代社会の中で孤独を感じる現代人にも共通した感情。
中途半端ではなにも解決しない。真面目に悩み、真面目に他者と向かい合うことで、ひとつの突破口が開ける、か。

共同体の生き方から解放されると、羅針盤を持たない個人は、かえって自由から逃げたがる。大きなモノによりかかる。全体主義、似非宗教、胡散臭いスピリチュアルな世界。
何を拠り所にするのか? 心のストレスが増した時代だ。

世の中の流れには乗っても流されず、ぎりぎり持ちこたえ、時代を見抜いてやろうとする気概。すなわち「時代を引き受ける覚悟」を持て、と言うことか。

悩む力
著者:姜尚中、集英社・2008年5月発行
2009年4月3日読了