ドイツ、欧州連合諸国だけでなく、アメリカでは200万部のミリオンセラーとなった。2009年には日本でも映画が上映されたな。

「ぼく」が15の年に関係を持った21歳年上の女性、ハンナ。謹厳な父親と4人の兄弟に挟まれ、「甘い」暖かさに飢えた主人公にとって、母親のような彼女は、かけがえのない存在となった。
大人の世界を知った優越感。のめり込む自分に酔う日々が続く。
物語の朗読を求められた主人公は、ベッドイン前の1時間の朗読が日課となった。オデュッセイア、老人と海、エミーリア・ガロッティ、罪と罰……。

突然の失踪。結婚しても彼女が忘れられず、離婚。自分の娘に「家庭の暖かさ」を与えてやれない罪悪感。
突然の彼女との再会は8年後。決して語られなかった「秘密」の暴露。彼女は、ナチス犯罪者の被告席にいたのだった。

隠されていた秘密。ユダヤ人強制収容所の看守。
いずれアウシュビッツに送られる囚人たちの中から、彼女は、体力のなさそうな少女を選び、そこでも「物語を朗読させて」いた……。

1960年代のナチズム裁判の複雑さ。正義と正当性を求める裁判の席で、不可解な言動を重ねる彼女は、他の被告者の罪をも背負い、無期懲役の判決を受けることになる。

煩悶する主人公。彼女の「本当の秘密」を推論の上に探り当てたとき、主人公「ぼく」は、法廷での不可解な言動の理由を、そのあまりにも悲しい理由を理解した。

希望を絶たれたハンナ。その最後の、戦慄の情景は、胸に痛い。

第一次世界大戦後、ナチスの擡頭するまでのワイマール共和国。1920年代後半の「デモクラシーの時代」は、果たして黄金の時代だったのか? 貧困層の生活の労苦が、ハンナの人生を狂わせた。人は強さと「安心」を求めるから、ヒットラーの成功も当然の帰結となる。
その代償が、ハンナをはじめ、多くの無名の一個人にのしかかったのが現実だ。

「歴史を学ぶということは、過去と現在のあいだに橋を架け、両岸に目を配り、双方の問題に関わることなのだ。……僕たちは過去の遺産によって形作られ、それとともに生きなければならないのだから」(171頁)

著者は、1990年に訪問した東ドイツの『灰色の光景』を見て、本作の構想を練ったと言われる。連合軍進駐直後の、廃墟と化したドイツの都市部の光景を思い出させた。それは、EUに一体化することを選択した、戦後ドイツの原風景……。
東京裁判を経験した敗戦国として、他人事とは思えない苦い読後感を残した。ぜひ、数年後に読み返してみたい。

Der Vorleser
朗読者
著者:ベルンハルト・シュリンク、松永美穂(訳)、新潮社・2000年4月発行
2009年8月13日読了