揺るぎない文化と歴史を誇るフランス帝国と大英帝国。多数の観光客が訪れる名所旧跡には、例外なく戦争の記憶が宿っており、これが「恵まれた島国」日本との最大の違いである。
本書は、欧州で繰り広げられた戦争を軸に、世界を代表する二大都市、パリとロンドンの魅力と、人生を全力で生きた人物の魅力を披露する。

古くはローマ時代の遺跡、城塞都市であるパリとロンドンの拡張に継ぐ拡張。百年戦争とジャンヌ・ダルク。ヴェルサイユ宮殿とルイ14世。フランス革命と全欧州を敵に回しての革命戦争。ナポレオン。エッフェル塔、凱旋門、普仏戦争に始まるフランス国民のドイツへの憎悪の連鎖、その反動としてのヒトラー、ド・ゴール。
蝋人形館のマダム・タッソー、マウントバッテン卿、ウェリントン、ワーテルロー(ウォータールー)、クリミア戦争とナイチンゲール、ノーベル平和賞第一号のアンリ・デュナン、第二次大戦下のジョージ六世、チャーチル。
そして、ユーロスターがイギリスとフランスの歴史を大きく変える。

圧巻は、やはり二人の英雄だ。
ナポレオン。一砲兵少佐からフランス革命を利用し、三階級特進で少将の地位を得た後は、水を得た魚のごとく、勝利を重ねる。陣頭指揮を執るナポレオンの姿は、兵の士気を高め、忠誠心を植え付ける。
凱旋門はただならぬ歴史の場所であることが分かる。
アウステルリッツの勝利、前例を嘲笑うようなノートルダム大聖堂での戴冠式、スペイン・ポルトガル侵略と敗退。
そして、セント・ヘレナ。満足な人生だったろうな。

もう一人はネルソンだ。自らの命と引き替えにイギリスを護った英雄だが、奥さんをほっといて"貴族の愛人"を自分の愛人にして子供を産ませ、その貴族の最後を二人で看取るという、すごい人物だったんだなぁ。(英雄、色を好むってヤツか。)
私生活はさておき、軍歴は華々しい。12歳で海軍に入り、20歳で大佐! フランス、オランダ、スペインを相手に戦い、20代で艦隊司令官の地位に就くのだが、その引き替えに右目と右腕を失っていたとは知らなかった。
トラファルガーの海戦に臨んでは、次の言葉で部下を奮い立たせる。
England expects that every man will do his duty.

そして、フランス軍艦の攻撃で重傷を負い、人生の最後に残した言葉は達観だ。
Now I am satisfied. Thanks God, I have done my duty.

……死ぬ間際に、このような言葉を遺せる人生を送りたいものだ!

で、ネルソンの旗艦、ヴィクトリー号はポーツマスに展示保存されているが、なんと、まだ現役扱いでイギリス海軍に所属し、正式な艦長もいるらしい。
ロンドンとポーツマスに行きたくなってきたぞ。(冬のロンドンは厳寒だろうな……。)

パリ・ロンドン 戦争と平和の旅
著者:辻野功、創元社・1996年6月発行
2009年10月30日読了