謹厳な養母との二人暮らしからの生活から逃れるように、黒渕家の家庭教師となった園子。東京女学校を出てから出世欲と野心にかられ、数々の求婚者を拒絶して英語学校を卒業するも、虚心にとらわれ無為な日々を過ごすうち、知人の紹介で女学校に職を得てから3年後のことだ。(26歳っても明治30年代のことだから、現在で言う"晩嬢"だな。)

財産家である黒渕家の出自は潔白なものではない、ゴシップ新聞(現在の大半のジャーナリズムもそうだな。威厳があると勘違いしている大新聞も含む)と社交界(現在ではネットか)の風評により、社会的に抹殺された一家だ。そこの長女、富子も26歳で、バツイチ。財産目当てに結婚した法学士・大学助教授には芸者と隠し子がいて、富子から離縁状を突きつけたそうな。
以降は、世を卓越した観念を持って独り暮らしを続けている。財産あるから気楽な毎日だ。

黒渕家が避暑地へ移る際、園子も同行するよう請われ、小田原海岸の別荘の一室に起伏することになる。7月のある日、宣教師で文学者の笹村が小田原へ宿泊していることを知り、園子は胸をときめかす。接吻を交わした仲だから、両思いのハズなのだが……。
砂浜での逢い引きの翌日から、黒渕家の奥方、縞子の態度が急変する。使用人扱いするだけでなく、露骨に侮辱する態度に腹を立てるが、その理由がだんだん分かって来るにつれ、園子の苦悩は深みを増してゆく。

勤め先の校長からプロポーズされ、しつこくつきまとわれ、嵐の夜に操をを奪われ……。

世間の言い囃す"地獄"の中に、自分の信じる道を見いだした園子は、富子に言い放つ。
「人は此の自由自在なる全く動物と同じき境涯にあって、而して、能く美しき徳を修め得てこそ、始めて不変不朽なる賛美の冠を、其の頭上に戴かしむる価値を生ずるのである。否、始めて人たる名称を緩さるるのである」
(26歳の女性の言葉とは思えないが。)

この作品が発表されたのは明治の世。センセショーションを巻き起こしたことは想像に難くない。
永井荷風って人は、その生活もそうだが、本当に自由人だったんだな。

地獄の花
著者:永井荷風、岩波書店・1986年5月発行
[荷風小説一]所収
2009年12月27日読了