日清・日露戦争に勝利を得て「一等国」を自負する日本。次なる野心を隠さずに世界から警戒されゆく中、少数派のキリスト教徒として、ある意味グローバルな視点から人生の目的を語る。

自分の生きた証。この世に自分が存在したことを、わが子孫に、否、幅広く後世の人々に伝えるには、何を成し、何を遺せば良いのか。
巨万の金を稼ぐ能力ある者は、金を遺せばよい。遺産を巨大な孤児院に代えたアメリカの慈善家と、一方で遺産を「巨大な自分の墓」に代えた「タダの金持ち」の例が述べられる。三菱財閥には、豪奢な別荘を建てるだけで広く世の中に還元しようとしないと苦言を呈するが、本当かなぁ。

金を稼ぐ能力の無い者はどうするのか。金満家から資本提供を受け、事業で貢献すればよい。土木、建築等で貢献すれば、それは後世の生活改善に繋がり、価値ある人生に昇華される。

事業を興す才のない者は? 思想を遺せばよい。ジョン・ロックの著作は遠くフランスを革命に導き、アメリカ合衆国を築き上げた。ミル、カーライルの著作はいまも世界を動かす原動力であり、聖書に至っては言うまでもない。内面宇宙のすべてを著述し、数十年後に若い世代が共感すれば、事業が始まることになる。
文学はたとえ一篇の詩でも、人々に記憶され伝承される。これぞ、60年の平凡な生涯に勝ることだ。

そして内村鑑三は述べる。金も事業も思想も崇高な遺物には違いないが、誰にでも実現できる、そして後世への最高の遺物は、勇ましい高尚な生涯である。
トマス・カーライルが例に出される。10年かかって著した「フランス革命史」の原稿を友人に貸し出した結果、暖炉の中で灰に消えた事実を知り、10日間も茫然自失となる。ここからが「カーライルの偉大さ=真の強さ」が発揮されるところ。自己叱咤し再び筆を執り、「革命史」を書き直したという。著書の内容もさることながら、艱難辛苦に打ち勝ったという、その事実こそが、後世に生きるわれわれを奮い立たせる。

勇ましい生涯と事業を後世に残す、か。たしかに価値ある人生だろうな。

後世への最大遺物/デンマルク国の話
著者:内村鑑三、岩波書店・1976年3月発行
2010年6月3日読了