コンゴ民主共和国。2006年になって、実に46年ぶりに"第二回"総選挙が行われたアフリカ大陸中央部に位置するこの国で、過去に何が行われてきたのか?

19世紀末に実用化された自動車用ゴムタイヤ"ダンロップ"は、原料の天然ゴムの需要を驚異的に伸ばし、資源採取競争は熾烈さを増した。

天才的な悪魔、ベルギー国王レオポルド2世の外交手腕により、列強が触手を伸ばす直前に、コンゴ川周辺のアフリカ大陸中央部は、ベルギー国王の"私有地"となった。(植民地ではない。) その建前はこうだ。現地人の福祉向上のため、奴隷として連れてこられたアメリカ黒人の帰還先として、自由な黒人のための共和国。文明化のための白人の責任、云々。
現実はどうか。現地農村を武力で蹂躙し、農民をゴム林での強制労働に駆り立て、利潤を貪った。で、逆らうとどうなるか? ベルギー王とベルギー企業の白人士官および黒人私兵による『手首の切断』が断行された……。

レオポルド2世の言葉だ。
「強制労働こそが、怠惰で心の腐った東洋の人間達を文明化し向上させる唯一の手段だ」
「先住民の権利の尊重云々などは笑止の沙汰であり、必要ならば武力を使って労働を強制すべし」(36~37頁)

19世紀までの奴隷輸出に代わる、現地人の奴隷化による強制労働。コンラッドの代表作「闇の奥」は、このコンゴの惨状を物語の背景とするが、その描写には黒人に対する同情はない。むしろ、白人"人種"の優越性と、大英帝国の植民地経営、帝国主義的侵略行為の正当性を裏付ける作品となっており、英文学の傑作としての地位を確保してきた。
「闇の奥」への批判は、ヨーロッパの学会とジャーナリズムにより迫害され、封じられてきた。白人の過去の行為の正当化。

文字通り搾取され、命と尊厳を奪われ続けたコンゴ人。生活基盤は破壊され、文明・文化も進歩を妨げられた。

1960年のコンゴ独立式典での、ベルギー国王による高邁な演説は、黒人コンゴ国民の精神を逆なでさせた。そして独立1週間後のベルギー軍の侵攻とアメリカの不介入、CIAによる首相の暗殺と続く。独立によって得たものは、ベルギー民間企業による経済搾取と、米国傀儡政権による40年間の専制政治……。
民衆が政治的権利を取り戻したのは、実に冷戦終了後だ。

"大変な時代だった"では済まされないところに、問題の根深さがある。
この強制労働は、なんと21世紀の現在でも形を変えて存続するのだ。表向きは植民地経営から手を引いたベルギー国家だが、現地産業を牛耳るベルギーの民間企業が、ウラン、コバルト、金、ダイヤモンド等の採掘のため、農民の追い出しと文字通りの奴隷労働を強制していると言う。その顧客はアメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国、インド等のグローバル企業であり、ソニーをはじめとする日本の企業も含まれる……。

本書では、上記の歴史的犯罪がおおっぴらにされず、ナチスのホロコーストが「これでもか」と言うくらいに喧伝される理由が明らかにされる。

大英帝国によるアフリカ南部の強奪と、金とダイヤモンドの寡占。アフリカの収奪は現在も継承される。
大英帝国のアフリカ侵略の先兵であったセシル・ローズは、その遺言の中で、オックスフォード大学のローズ奨学金の創設の意図を明確にした。
「その真の意図は、イギリスの統治の全世界への拡張、連合王国からの移民システムの完成、イギリス臣民によるすべての地の植民地化である」(137頁)

大英帝国の継承者であるアメリカは、この意志の継承者といえる。中南米、東南アジア(フィリピン、ベトナム)、中央アジア(アフガニスタン、イラク、パキスタン)へと拡散する帝国主義システムの構図が、それを示している。
やがては日本も組み込まれるのだろうな。

『闇の奥』の奥 - コンラッド・植民地主義・アフリカの重荷
著者:藤永茂、三交社・2006年12月発行
2011年4月19日読了