日本では戦後長く、帝国の概念、あるいは言葉そのものがタブーとされてきた。社会主義体制の崩壊に伴う小国家群があいつぎ独立し、1990年代のグローバリゼーションが進むと、従来の国民国家の枠内でとらえることのできない問題群が発生した。その解決を模索するに当たり、帝国の幅広い解釈が論じられるようになった。

本書は、オスマン・トルコ帝国とロシア帝国の崩壊から、アラブ世界の理想と現実、アメリカを盟主とする現代帝国主義世界を視野に、歴史、開発主義、民族主義、文化・文明論、ナショナリズムまで幅広く網羅している。

民族自決の理念が優先された結果、アジア・アフリカ諸国においてみられるように、国家の統治に支障を来す事態が生じている。
いまさら帝国主義の理念を蒸し返すわけにはいかないから、国家連合・地域連合の有用性は高まる一方だし、事実、EU、ASEAN、コモンウェルス(旧英連邦)によるメリットは大きい。
・東ティモールなんて、独立下は良いが産業もなく、どうするのだろう?
・アジアは中国がおおきすぎて難しいだろう。支那が分裂すればバランスが取れてより良い世界に近づくのだろうが。)

帝国を顧みる現代的な意味は二つ。(p378)
・国家のゆるやかな結合体ないしは地域協力のシステムを模索する上で、<帝国>の経験と試行錯誤をふりかえること。
・グローバリゼーションの現代を歴史の過去と比較する上で有用な手がかりとなること。

自己中心主義・自己膨張主義は帝国の性格として避けられないが、中央集権化とフランス同化に偏向したフランス・アフリカ帝国よりは、地域自治の割合の高かった大英帝国のほうが、現代帝国主義世界の運営、将来の展望に有用であるように思える。

帝国と国民
著者:山内昌之、岩波書店・2004年3月発行
2011年7月16日読了