1920年の本郷、銀座、丸の内を舞台に、東京帝國大学文学部の学生である安田俊助を軸に物語は進められる。

全篇を通底するのは、この俊助の傍観者的性格であり、何かを成し遂げようとする意志の弱さだ。

哲学者である野村氏の、初子に対する純粋な心持ち。後半で明らかになる、大井篤生のお藤への熱愛と、醒めた愛へのケジメ。両者を思い比べながら、初子の親戚で儚げな辰子に対する自身の憧れを俊助は自省する。

著者本人も訪問したという精神病院の描写は詳らかで、不安を誘う。この訪問を機に、俊助の世に対する構え、センチメンタリズムの否定を、辰子は敏感に感じ取る。

野村氏や初子嬢の生活には上流階級の気楽さ、大正中期の都市風俗(現代社会の原型)が窺える。また現在の"全入時代"と異なる、当時の超エリートである大学生の学業レベルの高さが読み取れる。

物語の結末は明らかにされない。また、看護婦だったお藤が、現在で言うキャバクラで給仕をしなければならなくなったのは何故か。
この作品に続編があれば、さらに面白かったのだが……。

路上 芥川龍之介全集第五巻所収
著者:芥川龍之介、岩波書店・1996年3月発行
2011年8月11日読了