ポスト印象派の大家、Gauguin ゴーギャンの生涯に暗示を受け、1919年に発表されたモームの代表作。
文化的な社会生活どころか、健康も顧みずに芸術を追究した男、チャールズ・ストリックランド。欲望をひた隠し、一般家庭人の生活を送るロンドン時代。家族も富もすべてをうち捨て、40歳から画家としてスタートするパリ極貧時代。放浪の末、"地球の裏側"で理想郷を見いだしたタヒチ時代。そのすべてで、周囲の人々の人生を破滅させ、自分勝手で壮絶な人生を送る。

ハンセン病に冒され失明しても、芸術への渇望は止まない。死の間際に神との接点を発見し、死とともに、その完成された作品を炎に葬り去る。

ストリックランド氏の剛胆な人生には脅威を感じるが、ストルーフェ氏の性格にも驚かされる。最愛の妻を寝取られ、その妻も最後は自殺に追い込まれる。それでも、彼の絵を"最高の芸術"と讃えることを止めない小心なオランダ人は、完全な道化だ。彼も芸術の狂気に取り憑かれたうちの一人にすぎない。

やはり恐ろしいのは、ストリックランド氏の妻だろう。捨て去られた自分たち家族が生きるためとはいえ、夫失踪のあらぬ噂を立て、職を確保する。亡き夫が世界的に有名になった後は、その貞淑な妻として、彼への理解をインタビュワーに顕わにする。
生き残った人間のしたたかさこそ、本物の強さなのだ。

The Moon and Sixpence
地球人ライブラリー
月と六ペンス
著者:ウイリアム・サマセット・モーム、大岡玲(訳)、小学館・1995年9月発行
2011年11月19日読了