関東大震災後の東京再建に目処が付きつつあった1930年、自立した"職業婦人"のための専用住居が建築された。本書は、モダン昭和に光輝を放つ、ユニークなコンセプトに基づいて誕生した大塚女子アパートメントと、そこに集った独身女性たちのドラマチックな人生を描く。

電気とガスが配され、戸締まりのできるドア付きの洋室、エレベータ、給仕付き食堂、シャワー付き大浴場、水洗トイレ、専任者付の洗濯室、来客用応接室、ピアノと蓄音機とラジオが備えられた音楽室、サンルームなど、キャリアウーマンが不自由なく日常を過ごせるよう、当時としては最先端の施設が用意された、豪華で堅強な6階建てのコンクリート建築。
高額の家賃だったそうだが、独身女性たちは、モダーンなライフスタイルを気ままに謳歌したんだろうな。

食パンを斜めに切った三角形のサンドイッチを日本で初めて考え出したのも、このアパートの店舗エリアにあった商店らしい。(p44)

断髪と洋装と洋風の化粧をし、丸の内のオフィスに勤め、銀座を闊歩する若く独立した学歴ある女性たち。「経済力があれば、自分の人生の決定権をもつことができる」(p85) 時代の先端で輝いている、都市文明の創造者でもあるモダンガール。彼女たちの遍歴書としても興味深く読めた。

第三章では谷崎潤一郎の女性遍歴にも触れられる。この偉大な作家って……足フェチだったんだな……。蛇足でした。

大塚女子アパートメント物語 オールドミスの館へようこそ
著者:川口明子、教育史料出版会・2010年10月発行
2012年2月3日読了