第一次世界大戦前のロンドン。父の影響によりプロテスタントからカトリックへと改宗した9歳のファーナンダ・グレイは修道院附属校へ入学するも、初日から打ちのめされる。
学友は執事付の御屋敷に住み、自分用の子馬まで持つ上流階級のお嬢様ばかり。数少ない中産階級の"ナンダ"は、使用人ひとりの自宅を南イングランド・サセックスの邸宅に、農作業用の老馬を立派な子馬に格上げして話を合わせるが……。

著者の実体験がベースとされる本作。聖心修道会をモデルとし、二千年にも及ぶカトリックの伝統と規律ある生活が、随所に散りばめられた多彩なエピソードを通じて伝わってくる。長年イギリスで蔑視されてきたカトリックの厳格さと信者の奥深い一面を垣間見ることができたように思う。

修道院に準じた女学生の毎日は過酷だ。10分単位で決められたスケジュール、質素すぎる食事、最小限の生活エリアに最小限の持ち物。俗世間との接触はもちろん、友人二人との行動も制限される。手紙や持ち物はすべて検閲の対象であり、世濁にまみれた小説などの保持は許されない。
服従こそ美徳。

3年を過ごすうちに、やがて親密さを増す3人の友人。フランスとドイツに係累を持ち、数百年のカトリックの家系を誇る貴族の娘、レオニー。プロテスタント大貴族でありながら、カトリックへの改宗を求めるクレア。王族とも交友のあるスペイン貴族、ロザリオ。
個人的には美貌と富と才能を併せ持ちながら、粗野で雑な性格のレオニーが気に入った。

小説の才能を開花させつつあるナンダ。信仰心こそ至上であり、学問や芸術は永遠の救いのためにあるとする教義に疑問を抱きつつもも、つつがなく毎日を送る。

ナンダ14歳の誕生日は、偶然にもその年の復活祭にあたる。聖週間を控えた数日間は、親友に囲まれて過ごした至福の時間となったが……。
物語の結末はあまりにも厳しい。

ナンダに厳しい処置を下したマザー・ラドクリフが語るように、カトリックの厳格さは人格の独立を許さないものだ。中世では当然視されていた独善的かつ排他的な教え。それが恩寵であり"人への優しさ"だとする価値観に賛同したくはないが、異文化探究の意義深さが強く感じられる。

FROST IN MAY
五月の霜
著者:Antonia White、北條文緒(訳)、みすず書房、2007年10月発行
2012年2月11日読了