中編2作品を収録。
『勤労感謝の日』
父親の通夜で母親にチョッカイをかけた上司をビール瓶で殴り飛ばし、退職を強要された元大手電機メーカー女性総合職36歳の見合い騒動。面白エピソード満載。
確かにこんな見合い相手が来たら、途中で放り出したくなるだろうな。
それにしても自虐的。"繭から孵化した蛾"に例えるなんて、世のアラフォー女性が黙っちゃいないだろうに。

『沖で待つ』
住宅設備機器メーカに入社後、福岡に配属された異性の同期社員"太っちゃん"と主人公。
バブルの御時世、忙しさに耐えながら職場に慣れた二人にも、やがて転勤命令が下る。別離を惜しみつつも軽口をたたき合う二人は、30代半ばに東京で再会し、ある秘密の約束を交わす。
……約束を実行に移す日が来ようとは。

第134回芥川賞受賞作。"同期入社愛"なる新鮮な切り口が話題になったと記憶している。
「それなら何も言い足すことはありませんでした。私たちの中には、あの日の福岡の同じ景色が……」(p107)に本作の主題が凝縮されている。

僕としては、うひゃひゃひゃ、と笑う副島先輩が「腕をきつく組んで、全身に力を込めて涙をこらえ」る姿がベストシーンだ(p92)。グッときた。

沖で待つ
著者:絲山秋子、文藝春秋・2006年2月発行
2012年3月22日読了