原作者、宮本輝さんの幼少期をモチーフにしたデビュー作の映像作品だ。風情あるモノクロ写真に魅惑され、上映会に出向いてきた。(2012年4月13日)

1956年の大阪、下流近くの河岸で食堂を営む一家に育った9歳の信雄は、ある日、喜一という同い年の少年と出会う。優しい姉の銀子とも親しくなり、おかしな船に住む彼らと交流を始める。"くるわぶね"って、なんだ?
貧しくも懸命な日常と、隣り合わせの死。冒頭の馬車人夫の轢死は象徴的だ。
過酷な満州戦線とシベリアでの強制労働に耐え抜き、第二次世界大戦から生還した男たち。なのに、日常生活であっけなく命を落とす姿には痛ましいものがある。
自宅に招いた喜一が軍歌を歌うさなか、信雄の父親が遠くを見つめるシーンが印象に残った。

"もはや戦後ではない"と、世間は経済成長の波に乗り飛躍するが、取り残された者には、特に、女手ひとつで子育てをしなければならない寡婦にとっては、時代は過酷すぎる。
銀子、喜一姉弟を支える美人の母親もそうであり、その貧しさには目を背けたくなる。
「米びつに手を入れているときが一番幸せ」これは銀子のセリフ。泣けてくる。

信雄の母親と入浴する銀子は、はじめて笑う。喜一も聞いたことのない笑い声だ。小さな幸せを噛み締めるシーンには、いや、瞬きを忘れてスクリーンに見入ったなぁ。

天神祭の帰り道、信雄は喜一に誘われ、彼の家="夜の船"に乗り込む。おばさんの"声"が聞こえる。信雄は、部屋の窓から漏れる灯りに誘導され。興味本位で覗いてしまった……。
行為。"郭舟"の意味を一瞬で理解した信雄。姉弟との友情は、遠ざかってしまう。
去りゆく信雄を振り返る銀子の姿が、あまりにも哀しかった。

・1981年日本作品、モノクロ105分
・監督:小栗康平
・出演:田村高廣、藤田弓子、加賀まりこ、蟹江敬三、芦屋雁之助、他

神戸新聞松方ホール
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