口髭の手入れを怠らない小柄なベルギー人にして、灰色の頭脳をもつ男、エルキュール・ポワロの活躍する、同時代にアメリカで発生した誘拐殺人事件への著者の強い怒りが込められた作品だ。
古典ミステリではあるが、1930年代の豪華列車の旅の雰囲気を楽しめた。

フランス人とベルギー人は互いに一体と考える傾向にあり、その目からイギリス人、イタリア人がどのように映っているかが垣間見られる。それでいて、雑多で活気あふれる新興国家、アメリカを、ヨーロッパと対峙させる見方が面白い。
また、東洋と同様、東ヨーロッパに位置するユーゴスラビアを"遅れた野蛮な国"と乗客がみなすなど、この時代の白人のコモン・センスが窺える。

"12の刺し傷"が謎を解く鍵であることには気付いたが、クライマックスでポワロが正体を明かすまで、ハバード婦人の正体には気付かなかった。まだまだ修行不足か。

MURDER ON THE ORIENT EXPRESS
オリエント急行の殺人
著者:Agatha Christie、山本やよい(訳)、早川書房・2011年4月発行
2012年5月10日読了