東洋哲学、医学、天文学から大衆文学まで、古くは聖徳太子から1200年の歴史を有する和本。明治の文明開化期に浸透した西洋文化が江戸木版刷本の伝統と出会い、明治から昭和初期にかけて華やかな出版文化を、書物を"愛でる文化"を育んだ。本書は、本の持つ魅力のひとつ、『装丁』の多彩な美を、近代文学の名作を題材に愛情あふれる文章で紹介する。

与謝野晶子『新訳源氏物語』、小栗虫太郎『オフェリヤ殺し』、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』等々。

"文学者と装丁"の分野でも夏目漱石が第一人者だ。時の流行や出版社の意向に甘んじることなく、自らの留学時代に英国で見聞した書籍の装丁を自著に体現しているのはさすがだ。僕も近代文学館発行の復刻版を複数冊所有しているが、なんど手にとっても惚れ惚れする出来映えだ。

「書物と著者に対する愛情と敬意、…自国の風土や文化とうまく融合させて、新しいものを創造したいとの気概」(p54) 書物文化への高い志に触れることの喜び!

文豪の装丁 NHK美の壺
編者:NHK「美の壺」制作班、NHK出版・2008年4月発行
2012年6月7日読了