通貨と郵便物にその国の統治者の意志が顕れる。特に万国郵便法のもとで流通に国境のない切手はプロパガンダに適する手段であることを、本書は現代の様々な事例を通して示してくれる。

・イラン・イスラム共和国の宗教政治の複雑さ、長らく中東・アラブ世界の金融・貿易センターであったベイルートに代わり「中世から近代への急変」を遂げたUAE・ドバイのバブル景気とその崩壊、ハイチ大地震に対するフランス、アメリカ、カナダの「援助合戦」の裏側、ベネズエラ・ボリバル共和国の社会主義の夢と現実、ニュージーランドの展開する偽善的反捕鯨運動、中共への朝貢外交へ走るタイ、デタラメ公務員天国ギリシャ、などなど。

・1999年のクーデターでパキスタン・イスラム共和国の政治権力を掌握したムシャラフ陸軍参謀長の、報道されることのない誠実な姿勢には共感した。後継大統領の"ミスター10%"ザルダーリー氏の醜悪さを見れば、事実上ロンドンで亡命生活を送るムシャラフ氏を応援したくなる。

・途上国で跋扈する"切手エージェント"のことは本書で初めて知った。

悲しいかな、戦後日本の世界への影響力は彼方に去り、世界第二位の経済力を誇る中共の存在感は、切手の世界でも肥大化しているのか……。

事情のある国の切手ほど面白い
著者:内藤陽介、メディアファクトリー・2010年8月発行
2012年6月30日読了