ヴィクトリア女王が君臨する1937年~1901年の「日の沈まない帝国」の首都、ロンドン。本書は、時代の主役として英国文化を牽引したミドル・クラスの暮らしと、そのライフスタイルに欠かすことのできない服飾、装身具、小物、食器、家具調度のデザインに顕現した「ヴィクトリア・スタイル」とその時代背景を、現在でも入手可能なアンティークを交えて解説する。

・18世紀の貴族社会から19世紀の都市中間層へ、田舎の大邸宅から都市のタウンハウスへと、時代をリードする主役と舞台が移り、家具調度の"リバイバル・デザイン"の流行と小型化が進む。アップライト・ピアノ、ウッド・チェア、ホール・スタンドなど、現代日本でも馴染みのあるモノは、ヴィクトリア時代に発祥するのか。ウォードの箱は日本では見ないが、いまでもアメリカでは普通に使われているらしい。道具を通して歴史を知る面白さがここにある。

・すでに労働者階級まで浸透した"アフタヌーンティー"の内容の変遷、ミドルクラスにとってのパーティの意義、テーブルマナーなど、われわれの日常に姿カタチを変えて浸透した物事の源流を垣間みられ、実に興味深い。

・一方で、ヴィクトリア時代は男性主体だったと言える。豊かな家庭の主婦に求められる理想像といい、結婚せず自活する老嬢(失礼!)の限られた職業(ガヴァネス=家庭教師)といい、女性には窮屈な時代だったんだな。
情熱にあふれた主婦の中には、家庭の役割をなおざりにしてアフリカへの慈善事業に力を入れる者もいたとか。数少ない社会との接点であったからなのか、帝国の植民地政策に心を痛めてのことかは知らないが、自国の貧民を放置し、訪れたことのない異国の援助に熱を上げることの偽善性に彼女たちは気付いていたのだろうか。
一部のNGOや日本ユニセ○(笑)も同じ構図か。

・セシル・ローズ、デ・ビアス鉱業会社、ダイヤモンド・シンジケート。宝石類を巡っての黒い衝動は、現代日本に直結していることがわかる。ビルマ侵略にも宝石がからんでいたとは……。

・職人芸とデザインとモダニズムの融合。なるほど、日本のモノが与えた衝撃は想像以上だったのか。1862年ロンドン万博を契機にジャポニズム=日本趣味の熱狂の渦が沸き上がったことは絵画や写真、遺された手紙類でうかがい知ることができるが、その熱気を実感できたら素晴らしいことだろうなぁ。
(3Dフォログラフィを高度化させ、当時の光景とモノとヒトに囲まれて街を歩き、行き交う人物との会話を愉しむことのできる高度娯楽施設を開発すれば……言うは易し。)

その他、旅行ブームとその副産物としての園芸ブーム、リバティ百貨店と日本の深い関わりなど、興味深い逸話が満載の本書、お奨めです。

これから愉しむアンティーク ビクトリア朝 なぜ生まれどう使われてきたのか
監修:プティ・セナクル、メディアパル・2012年6月発行
2012年6月20日読了