日本を熟知した生粋の英国人が、日本人の興味を抱く話題をオムニバス形式で披露してくれる。
大書に掲載されることのない「ふとした出来事や意外な細部」が歴史の魅力を引き出す(p13)。そんなサービス精神にあふれた一冊。
著者の生地への思い、そして一族のルーツへの憧憬に満ちた文章に好感が持てた。

・ケルト人からサクソン人へ、そして中世の民族浄化=ノルマン・コンクエストを経てノルマン人へ支配者は変わる。一級市民と二級市民、異なる言語、領主による搾取。著者は中世の話題を提供しているのだが、僕は帝国主義時代のインド、南アフリカ、カリブ海諸国を支配するイギリス人の姿を想起した。この二重性に、苛烈な世界支配の原点がみえてくるようで、面白い。

・マグナ・カルタに関する逸話。2010年5月に大英図書館で実物を見たが(展示室の奥の別室で厳重に監視されている)、これが公正な裁判の機会を保証する世界初の契約書であり、その後のアメリカ合衆国憲法、国連世界人権宣言に多大な影響を与えたとは知らなかった。(p64)

・ガイ・フォークス。1605年の国会議事堂爆破計画に参加し、仲間の裏切りから直前に逮捕されてしまう。プロテスタントの支配する国で、少数派カソリック過激派の主導により計画されたイギリス史上最大のテロ計画は頓挫し、彼は拷問に耐えて首謀者や仲間を明かすことなく絞首台の人として消えた。(p51)
彼は歴史に名を残す最初のテロリストであるが、暴虐に抵抗する者の偶像としても名を残した。現代ではAnonymous アノニマス・メンバーの仮面のモデルとして、その名をあらためて世界中に示している。

・1908年のロンドン・オリンピックにおいて、よくわからない42.195キロメートルにマラソンコースが制定されたのだが、その理由が突き抜けている。臨席する王族からよく見える位置にスタートおよびゴール地点が設けられ、その距離が42.195キロ。これが2012年まで続いているわけか。(p77)

・世界を支配する帝国の象徴としてのブリタニア、普通の=地方の中流階級イギリス男性を体現するジョン・ブル、下級兵士の代名詞、トミー・アトキンス。そして現代イギリスで労働者を表象するジョー・ブログス(p195)。その時代を象徴するキャラクターに愛着を持つイギリス人に羨ましさを感じる。
日本には「ゆるきゃら」がいる? 湯水のように税金を投じて粗製濫造される"行政の成果"に愛着を持てと言われても、それは無理な話だろう。

個人的には、19世紀後半に流行したオペラ『ミカド』(p185)を観劇してみたいなぁ。

驚きの英国史
著者:Colin Joyce、森田浩之(訳)、NHK出版・2012年6月発行
2012年6月16日読了