1979年、ソ連のアフガニスタン侵略に心を揺さぶれたサウジアラビアの大富豪の息子がジハードに身を投じ、やがて世界を震撼させる数々の出来事を引き起こす。
本書は、米国を相手に本格的な戦争を開始した1998年から2011年5月の襲撃作戦まで、アメリカの15年にわたるオサマ・ビン・ラディン追跡作戦の内幕を明らかにする。

冷戦終了後、アメリカの情報機関の人員、予算、実行力がいかに低迷していたかがわかる。
CIAの職員が任務の手続き(入手した情報の関係機関への周知)を怠ったため、二人の人物の入国阻止に失敗したこと(p100、この二人こそ、9.11テロの実行犯だ!)、国務省の複数のデータベースでは情報共有がお粗末であり、苦労して捉えた情報の周知の遅れたことが、結果的に9.11テロの発生を防げなかったことが明らかにされる。(p110)
これらは新鮮な驚きでるとともに、組織のマネージメントにおける身近な問題として興味深い事例だと思う。
FBIの事なかれ主義、たとえば責任逃れのために書類報告を抑制する事例などは、昨今の霞ヶ関で流行しているらしい風潮=「議事録を残すな」に通じているようでならない。

謎は残る。
ビンラディンを隠れ家のアボダバードで捕獲せず、すぐに殺害したのなぜか。土葬を基本とするムスリムをなぜ水葬したのか。わざわざ航空母艦の上で葬儀を行う必要はあったのか。写真が公開されないのはなぜか。
そもそも、殺害されたのは本当にビンラディンだったのか。
いずれ明らかにされることに望みを託そう。

今後の展望として、米軍撤退後のアフガニスタンではかつての軍閥支配下の混乱が再燃し、そこにイスラム過激派の活動する場が生まれること、皮肉にも中東と北アフリカの民主化革命の進行は、かえって南アジアでのテロを激化させることが示される。
なるほど、アル・カイーダの中枢部は崩壊に追い込まれたが、その意思は次世代の組織、すなわち、パキスタン・タリバン運動(パキスタンのタリバン)や、パキスタンが生み出したカシミール過激派のラシュカレ・タイバに受け継がれたのか。
テロとの戦いは次のステージに移行しつつある。今後も注視しなければならない。

ビンラディン抹殺指令
著者:黒井文太郎、洋泉社・2011年7月発行
2012年7月12日読了