前半は著者の所蔵するポショワールを題材に、女性服飾ファッションを中心とするアール・デコ文化が紹介される。
室内装飾、キネマ、調度品、自動車、鉄道旅行など、1910年代の上流階級の生活文化の一端を窺えて興味深い。
ポショワールが静岡産の和紙に刷られた手彩色の版画であることを知った。
・Charles Martin シャルル・マルタン「音楽」:深く強い色彩と細部の装飾が気に入った。
・George Barbier ジョルジュ・バルビエ「突風」:浮世絵の強い影響が窺える。春風の表現も実に良いなぁ。

ところで、この時代の女性ファッションの特徴だろうか。昼は帽子を被り、夜は派手な飾りの付いたturban ターバンを着用している作品が多いように思う。

後半はエルテ、スワンソンへのインタビュー、ココ・シャネル、ジャンヌ・ランバン、マレーネ・ディートリッヒなど、時代を席巻した人物の解説パートとなっている。
自立心旺盛な女性が活躍しはじめ、現代社会との繋がりも密接な時代だったんだな。
エルテ氏の「仕事をますます発展させながら衣食住に個性と贅沢を発揮し、決して沈むことのなかった」(p123)生き方にダンディズムをみる。こうありたい、と思わせてくれる好例だ。

1920年代を中心とする戦間期は興味深い。自動車と鉄道の発展がもたらした時代のうねりに加え、浮世絵と日本工芸品、東洋趣味、エジプト遺跡の発見、ロシア・バレエ団の色彩など、20世紀初頭の出来事がデザインにあふれ出る。そんな時代の色彩と感性に触れることができ、満足な読後感を得た。

大石 尚 コレクション
アール・デコ ファッション
著者:大石尚、繊研新聞社・2010年11月発行
2012年10月9日読了