世紀末の唯美主義の旗手といえば、ワイルド。オックスフォード在学中から、その言動やファッションをして世間を騒がせていた人物だったんだな。ドリアン・グレイや数々の戯曲を発表する以前にアメリカを講演してまわっている。
サロメは1891年のパリで創作された。祖国イギリス帝国での上演が許されたのは、本人がこの世の底に没して実に30年後の1931年だったことに驚かされた。
ヴィクトリア朝にあって、同性愛スキャンダルの凄まじさがわかろうというもの。

わが国で王女サロメといえば松井須磨子だが、20世紀初頭よりドイツ、フランス、アメリカ等で上演されるも、次第に忘却されたことには、栄枯盛衰の感がある。

「長い黒い夜だって、月が面を隠し、星も恐れる夜だって」(p39)

世に君臨すれども世を畏れるユダヤ王エロドと、恋に狂い預言者の首を求める王女サロメ。その噛み合わない感情が生み出す悲劇。近代文学や現代小説と比べて違和感があるものの、舞台を想像しつつ台詞を再現すれば、やはり上等の戯曲に思えてくる。

ビアズリーの独特の挿画、特に「ヨカナーンとサロメ」(p37)が良い。作品にマッチしており、実はこちらのほうが有名なのかもしれない。
こんな作品と芸術至上主義を生み出したヨーロッパの世紀末。やはり面白い時代だと思う。

SALOME
サロメ
著者:Oscar Fingal O'Flahertie Wills Wilde、福田恒存(訳)、岩波書店・1959年1月発行
2012年10月11日読了