『冥土めぐり』
高級ホテルのサロンでスカートを翻し、ひとり踊って遊ぶ幼い母。繰り返される8ミリフィルムのイメージは、奈津子を「あんな記憶」に束縛し続ける。
浪費に疑問を持たない母と弟。栄華を誇った一族の末裔なら、家族や他人に犠牲を強いて平然としていられるのだろう。
「語らない、泣かない、しかし退屈でもない。否定ばかりのこの有様は一体なんなのだろう」(p20)
ホテルから美術館、そして足湯へ。障害者となった夫、他人を疑わないパートナーを伴い、奈津子はささやかな旅路を、記憶の経路をたどりゆく。
他人の人生を受け入れることは、自意識の肯定につながることだな。

『99の接吻』
古くからある町に住まう四人姉妹と母親の近代文学に彩られた家庭に、Sという青年の交わりが引き起こす、ちょっとした事件。
いつかは変化することを予感しつつも、心地よい私たちの家、私たちの町へ闖入するヨソ者に対し、排除しようとする本能の荒々しさが上質な筆致で綴られる。
本作にSNSや携帯の登場する余地はない。

随所に描かれる"女の直感"は、怖い。
「ただ、不安で、納得しがたい、芽衣子姉さんはそうやって漠然と嘘を見抜く」(p133)
葉子と菜菜子の、口に上らない言葉のやりとりもみえてくる。
拡大し、衝突し、いつかは収斂するときを臨むであろう仲良き姉妹のプライバシー。家から巣立つとき、静かな変化の予感を残す終末に好感を得た。

著者:鹿島田真希、河出書房新社・2012年7月発行
2013年1月12日読了