中東におけるイスラームの成立からアジア、アフリカへの拡大、異宗教との衝突、911後の欧米諸国での露骨な嫌イスラム、タリバンの復活、そしてアラブの春までを概観する。

・カリフ、ハディース、スーフィー、ホラーサーン、タウヒード、ヒズボラ=ヒズブ・アッラー等々、わかりやすい解説はありがたい。

・民族主義と異文化の共存を図るイスラーム帝国システムと、異文化との共生を妨げる西欧的民族主義、その違いは鮮明だ。
"不平等下での共存"を内包してきたイスラーム帝国の租税制度、ザカート、サダカ、ジズヤは、これからのグローバル化された社会システムを構築する上で現実的なヒントになりうると思う。

・アフガニスタンで執行された"イスラーム的でない"刑罰に関する記述は納得できなかった。パキスタン北西部のトライバルエリア(FATA:連邦直轄部族地域)へとまたがるパシュトゥーン族の土着の習慣・風習、あるいは文化にイスラームが混淆したのだから、場所ごとに刑罰は異なるのではないか。
欧米諸国の偏見や先入観はともかく「ムスリム側のでたらめなイスラーム法の運用」(p39)は、非難されるべきではないだろう。

・1989年の東欧の民主化は記憶に新しい。民主的な選挙を経て民主的な政権が誕生するのは素晴らしいことだし、"アラブの春"に寄せる西欧諸国の期待も高まろうというもの。だが畢竟、中東での民主的な選挙は、イスラーム政権の誕生につながり、西欧の期待は見事に裏切られることになる。民主化のジレンマか。
根底にある民族主義の枠組みから脱却し、国民国家からイスラームへ回帰すること、すなわち「自らの価値の体系にしたがって民主化を進めること」(p238)こそが、イスラームの民主主義を実現する鍵である、か。なるほど。

イスラームから世界を見る
著者:内藤正典、筑摩書房・2012年8月発行
2013年2月3日読了