元戦場カメラマンの養蜂家、農薬製造会社の研究員、そして若手の農水省女性キャリア官僚。本書の三人の主人公が、帰属する社会集団の掟、背負うべき責任、築いてきた価値観、そして自らの信念を貫きつつ、巨大な流れに対峙して奮闘する。

養蜂家の代田、それに農水キャリアの秋田は、「プライド」に収録された短編作中の主人公だ。その後日談が拡大・融合し、ひとつの結末へと収斂してゆく物語は見事であり、米田や露木ら名脇役の再登板を含めて、実に嬉しい限りだ。

静岡県の茶畑で穏やかな時間を過ごす子ども自然教室に、コントールを喪失したラジコンヘリが農薬を撒き散らしながら飛来してくる。高濃度の農薬に暴露して痙攣し、意識を失う子供たちの惨状から物語は始まる。
・無人攻撃機の攻撃に突如さらされるアフガニスタン、パキスタンの人々の恐怖の情景が重なる。
・被害者の息子の父であり、被害をもたらした農薬の開発責任者でもある平井、農薬の危険性を訴えてきた養蜂家の代田。立場は違えど、二人の責任ある行動は良識ある人物の鑑でもある。

TV番組に出演した代田の不注意から「農薬は第二の放射能」との言葉が一人歩きし、マスコミが騒ぎ立てることとなる。

農薬とミツバチを巡る対立が対話となり、日本の農業の危うさ、ひいては地球規模の食糧危機へと物語は展開する。
・米国企業の尖兵となり、遺伝子組み換え食品をごり押しする国会議員
・減反農地の融通を求める中国のしたたかさ
・力と金を有する国が食糧を強奪する世界。もはや貿易赤字国となった日本はどう立ち振る舞うのか。
・飼料用とうもろこしや小麦粉どころか、遺伝子組み換え"動物"を食用とする時代が迫っていることを知らされると、人の能力を超えた存在=テクノロジーの扱いが問題となる。
ヒトは"文明の進化"にどう向き合えば良いのか。

秋田の行動力、特にエピローグ前のそれに、力を与えてもらった気がする。
なるほど、未来を変えることができるのは行動だけだ。

愛読している著名なメルマガで、農業の輸出産業化に異を唱える見解を読んだ。
国内でほとんど報じられない農業・食糧事情の深刻さと数年先の「日本の飢餓」の可能性を思うと、議論すべき事柄に違いない。
そして、まだ救われる可能性があると信じたい。

TPP交渉参加に動きの出たこの時期、著者の投じてくれた問題は実に重い。
一市民、そして会社組織に身を置く者として、何ができるのかを考えたい。

[補記]
地元ネタで恐縮だが、かつて明石海峡を航行した、たこフェリーの登場が嬉しかった(p260,266)。
作中に「大きなタコが足を広げているイラスト」とあるから、「あさしお丸」がモデルなんだろうな。
(実物は、2010年にタイのフェリー会社に売却されてしまったが。)

黙示
著者:真山仁、新潮社・2013年2月発行
2013年3月2日読了