毎日のように繰り返されるサイバー攻撃。報道される事案は氷山の一角で、自社のイメージ悪化と株価下落を懸念し、自ら被害を表明する企業は少ない。

2007年のイラン核兵器工場サイバー攻撃事件。米国とイスラエルが共謀し、ウラン濃縮用の遠心分離器の回転数を操作して破壊したとある。
同種の攻撃を日本の中枢インフラに、たとえば複数の火力発電所に向けることもできる。ソフトウェアの操作によるタービンの破壊は長期間に渡る停電をもたらし、生活基盤を揺るがすこととなる。
攻撃者の素性を隠したまま、爆撃とさほど変わらない戦果を得ることができ、弱者にとっては大国を攻撃する最高の兵器となりうる。
すなわち、非対称戦争の究極の形態。

戦争のあり方が大きく変わる。国家間の紛争に「個人」が「勝手」に自宅やオフィスから「参戦」するという衝撃が現実のものとなっている。
サイバー・パルチザンといえば聞こえは良いが、従来の交戦ルールや捕虜規定の範疇を大きく外れ、なおかつ「愛国無罪」な彼らへの対処方法が今後の議論の的になるだろう。

"超限戦"を提唱し、いまや国際社会規範・倫理人道などを無視した攻撃ドクトリンを有する中国共産党人民解放軍。その支配領域に擁する800万人もの民兵をサイバー戦争に動員し、米国・英国・日本などの政府機関・民間企業の機密情報を盗み取っているとされる。だが「われわれこそ被害者である」と言われれば、その虚実を見破る手段の無いのが現実だ。
その中国の情報通信技術レベルは日本をはるかに凌駕しており、もはや民間企業や地方自治体がこれに対抗するのは不可能だ。

では、あきらめるのか。そんなわけはない。
著者は「サイバー戦争を予防・規制するための技術開発の推進」
に力点を置くことを提言する。
米国、中国、ロシア、イスラエルでもない。"遅れてきた者"の立場を利用しつつ、日本発のトレースバック技術で世界標準化を目指すこと。
なるほど、これこそ"平和国家"日本の指針となりうるな。


一般の個人レベルでも、できることから始めたい。
ボットネットに組み込まれるのはイヤだから、まずはスマホとタブレットに市販のウイルス対策ソフトを導入しよう。
本書を一読した以上、間違ってもロシアや中国のソフトは使わないが、国産品がない以上、ノートン先生に頼らざるをえない。歯がゆいな。

「第5の戦場」サイバー戦の脅威
著者:伊藤寛、祥伝社・2012年2月発行
2013年3月30日読了