オスマン様式建築の壮観なブルジョア的地区、庶民派地区、新興ボヘミアン・リッチの集う地区などの様々なパリの姿を、伝統的なカルチェではなく、パリジャンの日常的に意識する"区"単位として、生粋のパリジェンヌであり、日本とも深い関わりを持つ著者が紹介する。

・1区といえばルーヴル宮。それ自体が一つの世界であり、パリの特徴であるシンメトリーを表現する。ここから観るパースペクティブ(これもパリの特徴)は壮観だそうな。
歴史と日々の暮らしに詩情と芸術とが混ざり合ったシテ島、ノートルダム大聖堂=ベル・ダム(麗しの女性)への著者の想い。これはパリ市民に通底する心情なのかも知れないな。

・古きパリのマレ地区を擁する3区と4区。パリの歴史を紹介する"カルナヴェレ博物館"と1977年に建築され賛否両論の渦巻いた"ポンピドゥ・センター"の対照も面白い。

・18区モンマルトル、14区モンパルナス、6区サン・ジェルマン・デ・プレ。それぞれ世紀末ベル・エポック、戦間期エコール・ド・パリ、50年代に知的・芸術的生活の中心を成した地区であり、その名残が今も随所に残り、パリの魅力を醸し出している。
そうか、モンマルトルは1860年まではパリに隣接する村だったのか。"風車"は時代の名残だな。
温故知新ではないが、これらの場所を訪れ、何らかの知的刺激を受けることができれば、旅行の成果にもなりうる。

・17区は"コンシェルジェがいるアパルトマン"の件に興味を惹かれた。近代化の名残を今に伝える建築物に数十年も居住する住民。
観光地でなく市街中枢でもないが、さらけ出されていないパリ市民の姿が垣間見られる区域だと思う。遠くから眺めるだけになるだろうけれど。

心底パリを愛する想いがシンプルかつ美しい文章で綴られる。われわれは"異邦人"として訪問するわけだが、少しでも同じ目線を共有することで、グローバルにしてローカルな都市、パリの真髄に触れられたら嬉しいと思う。

Paris par arrondissement
パリジェンヌのパリ20区散歩
著者:Dora Tauzin、ポプラ社・2007年3月発行
2013年4月22日読了